本研究の目的は,共同体を離れているために支えることができなくなった老親の世話や自身の老後についての人びとの取り組みや考え方を質的社会調査の方法を通じて捉え,近代化のなか伝統的な配置を崩されつつある現状に対処して,人びとが共同体を「維持」するための具体的な方略は何かを明らかにすることである. 2023年度の調査は,インタビューとフォーカスグループディスカッションを行なう予定であったが,(ヒンドゥーの祭日や突発的な事故が重なり)フォーカスグループのスケジュール調整が難しく,個別のインタビューを行うにとどまった.現地調査(オープンエンドのインタビュー)では,共同体への帰属に関わる人びとの考え方を以下の 2つを軸として尋ねた: 「起源」の土地を離れた人々がもつ自分と出身共同体とのつながりという観点,そして,(同様に起源の土地と関わるが起源と異なり移住先に社を新設することで)動かすことの可能な祖先や近親とのつながりという観点である. 当初計画では,最終年度に成果報告を調査成果の現地への還元という意味で行なう予定であったが,2020-2021年度にまったく現地調査を行なえず,最終年度に本調査を行なうこととなり,補充調査,成果報告を行なえなかった. 全体を通じ本研究では,共同体を離れているために支えることができなくなった老親の世話や自身の老後についての人びとの取り組みや考え方を捉えることから,バリ人を取り巻く現代的状況における共同体とのつながりを検討した.データとした個人の逸話だけを見ると,移住の背景や移住後の出身村との関係及び老後の予定など個々の事情の違いにより変わるだけのように思えるが,共通している点に目を向ければ,共同体(出身村)との関係(の説明)に二つの異なる規則(「地縁」と「血縁」)の働きを見て取ることができる.
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