本研究は,インドネシアの地方社会に潜伏する社会問題を人類学的な微視的視点から剔出した.経済成長のもたらす見かけの豊かさにも関わらず,バリ人社会では,福祉については危うさのあることがわかる.当事者であるインタビュー対象者たちが一致して表明する,実家と移住先との二重の帰属による負担感(の無さ)の理由として彼らが挙げている,「始原」(共同体あるいは祖先)への奉仕という考え方から,社会福祉を社会全体によってではなく個々人の努力によって成し遂げようとする規範を正当化するイデオロギーとして,血縁や共同体に関わる伝統的観念が作用していると考えられ,これを日本を含むアジアの諸社会と比較することが可能である.
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