研究課題/領域番号 |
20K01220
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研究機関 | 大阪公立大学 |
研究代表者 |
多和田 裕司 大阪公立大学, 大学院文学研究科, 教授 (00253625)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | イスラーム / マレーシア / 世俗 |
研究実績の概要 |
2023年度は、夏季にマレーシアでの資料収集および実態調査を実施するとともに、収集した資料の整理、検討をおこなった。マレー・ムスリムがおかれている「世俗」の領域について、23年度はとくに非ムスリム、非イスラームの存在を前提とする「制度」と、イスラーム以外の要素が遍在する「空間」に焦点をあてた。 前者については、イスラームが実践される枠組みとしてのイスラーム法制度を対象とした。マレーシアでは、従来、イスラームにかんする事柄は憲法上州に属する事項とされ、各州はシャリーアにもとづいた州のイスラーム法令を比較的広範囲に制定してきた。しかし近年、州で制定されたイスラーム法令の一部を無効とするような連邦裁(最高裁)の判断が相次いでなされている。このような動きは、イスラームと「世俗」との境界の再設定とでも呼べるものであり、イスラームといえど「世俗」の枠組みのなかでしか実践できないことの具体的あらわれととらえることができる。 後者については、ムスリムの生活の場である現代社会の消費空間に焦点をあてた。経済発展とともにマレーシアではショッピングモールが林立し、消費生活の中心的な位置を占めている。モールでは、グローバル・チェーンが軒を並べ、同時にハリラヤ・プアサ(イスラームの断食明けの祝祭)などのイスラーム行事が「脱宗教化」されたイベントとしておこなわれている。そこに集うムスリム消費者のイベントとの関係性は、クリスマスや春節、独立記念式典といった非イスラーム的、非宗教的なイベントのそれと相似的である。イスラームの宗教的行事ですら、ショッピングモールでの商業イベントという「世俗」の枠組みを通して実現されている。 現段階にあっては資料の分析がまだ十分ではないが、いずれの事象においてもイスラーム以外の要因(「世俗」の領域)がムスリムの実践を形作る例としてとらえることができる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2023年度からコロナ禍以前と同程度にマレーシアでの現地調査が可能となった。2022年度に実施した現地調査とあわせて、ようやく当初予定していた研究の進捗状況に近づきつつある段階である。
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今後の研究の推進方策 |
2024年度は、本計画の補助事業期間再延長が承認されたことにより、マレーシアでの調査を実施し、関連する資料の入手に努めたい。具体的には、本務校の夏季休業期間を利用して可能な限りの現地での資料収集を実施する。年度後半には収集した資料をもとに研究成果を取りまとめる。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究はマレーシアでの現地調査を主たる研究手法とするものであり、2020年度から2022年度の三か年の補助金の大部分をそのための経費にあてる計画であった。しかし2020年度、2021年度はコロナ禍によって現地調査ができなかったことから、2022年度、2023年度(補助事業期間延長)の研究実施を経ても、三か年の予定経費のうち当初予定の一年分が計画通り執行されていない状況にある。幸いにも2024年度の補助事業期間再延長が認められたため、現地調査のための経費を中心に繰り越した補助金を使用する予定である。
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