研究課題/領域番号 |
20K01226
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
小長谷 英代 早稲田大学, 社会科学総合学術院, 教授 (60300472)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | アート / フォーク/フォークライフ・フェスティヴァル / 文化政策 / 文化民主主義 / パフォーマンス / スミソニアン・フォークライフ文化遺産センター / NEA / フォク・アート |
研究実績の概要 |
本研究の目的は近代のアートの階層的概念化・理論化における領域の歴史を再考し、これに対するアメリカ文化人類学・民俗学の研究と実践の批判的協働へのアプローチを捉えることによって、公共文化としてのアートにおける研究の意義や研究者の役割を考察していくことにある。考察の視点として、特にアートの定義、言説、表象がどのように変化してきたのか、(1)理論、(2)政策、(3)理論・政策の相互関係と研究者の位置性に注目し、研究と実践の多層的な文脈に探っていくことを意図している。 2021年度の研究は、2020年度に続き、新型コロナウィルスの感染拡大及びそれに伴う渡航制限により、研究計画の主要部を成すアメリカでのフィールドワークが実施できなかったが、当初より文献・関連資料の研究観点・範囲を拡大したことにおいては、重要な考察の観点を得ている。 具体的には文化人類学・民俗学のアートの(1)理論、(2)政策を、歴史、社会、政治、経済等、多層的な文脈から捉えるうえで、特に「アート」における「経済」のより広範な観点からの考察を試みている。1980-1990年代の「アート」においては「経済」が、市場、コミュニケーション、メディア等のグローバル化と複雑に交わり、極めて大きな意味をもつようになっており、文化人類学・民俗学のアートへのアプローチと文化政策にも深く関わってきたことに注視する必要性を感じたからである。アメリカの公共部門・応用実践分野の文化人類学・民俗学が、特にグローバル経済がもたらすアートの新たな文脈においてその意義を強めてきたことは重視すべきであり、さらに考察を深めていきたい。 また、本研究は、文化人類学・民俗学が、経済や政治との接点から目を逸らしてきたことの見直しを意図しつつも、本年度の研究では、両領域のアート研究においては経済学、美学・美術史等、領域を超えた視点の意義と可能性をあらためて確認している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究が焦点を置く(1)理論、(2)政策、(3)理論と政策の相互関係と研究者の位置性の考察では、上記「研究実績の概要」に示したように、文献と関連資料等の理解において、一定の進展があったが、本年度も昨年度に続き、アメリカでの現地調査が実施できなかったことで実践の観察への体験的な洞察は十分ではない。当初の計画では、文化人類学・民俗学の応用実践と文化政策の場として、現地でのフィールドワークの主要部に予定していたスミソニアン・フォークライフ・フェスティヴァルが、2020年度に続き本年度も、全面的にオンラインでの開催となっている。ただ、オンラインによる開催は同フェスティヴァルに限らず、多数のフェスティヴァルにも共通した対応であり、実際、アートの展示、実践、市場等をはじめとするアートワールドのオンラインでの展開が加速化している現実に呼応するものといえる。フェスティヴァル開催日・会場での体験の代わりに、オンライン開催の形式として、例えば、実際のパフォーマンスや工芸等の実演に加えて、実演者、参加者、研究者/フィールドワーカー/キュレイター、政策・企画担当者等によるセッションやワークショップ等、多種多様なリアルタイム開催すると同時に録画ビデオを、事前の準備段階から開催後まで提供している。こうした試みはフェスティヴァルの時間・空間及びアクセスの拡大といった意味では意義深く、むしろ新たな実践の選択肢を広げている。
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今後の研究の推進方策 |
現在、渡航条件等も緩和されつつあり、2022年度は、本研究課題の主な計画となっているアメリカでのフィールドワークを実施できる見込みである。現地フィールドワークの主な対象であるスミソニアン・フォークライフ・フェスティヴァルも2年ぶりに開催され、現地ワシントン・DCでは、同フェスティヴァルの他、スミソニアン・フォークライフ文化遺産センター等での資料調査を実施する予定であるが、調査のタイミング等に関わる諸状況を踏まえ、調査対象として、州レヴェルでのフォークライフ/フォーク・フェスティヴァルやフォーク・ナショナル・フォーク等も選択肢に含めておきたい。調査では2年間のオンライン開催で得られなかった現地での観察・体験に注視しながら、フェスティヴァルのキーワードやレトリックの表象やパフォーマンスにおいて、実際理論と政策が、どのように実践されるのかを探っていきたい。また、州のフェスティヴァルにはハイブリッド開催もあり、フィールドワークに加え、2年間のオンライン開催で定着した、フェスティヴァルに関するセッション等のイヴェントのあり方や関連資料の内容も昨年同様に調査していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルスの感染拡大によって予定していた海外調査が実施できなかったことにより、未使用額が生じている。 調査地・国内等の感染や渡航に関する状況を踏まえ、調査対象(調査地・時期、場合によって調査国)の変更等の調整を含め、調査を実施していく。
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