研究課題/領域番号 |
20K01232
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研究機関 | 関西外国語大学 |
研究代表者 |
加藤 隆浩 関西外国語大学, 国際文化研究所, 研究員 (50185849)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | アンデス / 海民 / 交換 / 山間地域 / 漁労 / セルバ |
研究実績の概要 |
本研究は、新型コロナの世界的流行により丸2年間研究の中心をなすフィールドワークができない事態となっていた。そこで初年度同様、今年度も無駄な支出を避け手持ちの資料の解析に重点を置き、調査地の1つであるペルーの研究者と様々な角度から情報や意見の交換を行った。その結果、実証性と地域偏差についての考え方が、研究者の間で齟齬があることが分かった。当初の計画では、エクアドル、ペルー、チリ北部のアンデス海民とその文化を地域で一括りにし、漠然とではあるがあたかも一枚岩であるかのように想定していた。しかしアンデス各地の事例を突き合わせてみるとペルーにだけ絞ってみても大きな差があることが分かった。もちろんこの地域偏差を無視し都合の良いデータだけを選択するわけにはいかないので、むやみに調査地や調査項目を拡大するのを控え、実証性を最優先し、信頼できるデータの採集に努めるのが得策であるという考えに達した。そしてこのような「広く浅く」という視点から「狭いが深く」という見方に転換することで、これまで見逃してきた事柄がいくつも見えてきた。たとえばペルーの海岸部と山間地域の湖に浮かぶ舟の構造は互いに酷似しているが、同じ材料を使用してはいるが家屋の作りという点においては、地域ごとに大きく異なっていることが明らかになった。また、高地の農民の間では社会秩序をコントロールする超自然的存在として「亡霊」が信じられているが、海民の間では、その役割をアオガード(溺死者)が担っている。一見両者は別物に見えるが、形式、機能の点では同じものと考えてよいことがわかった。成果は. Takahiro Kato, WWilfredo Kapsoli y otros, El deber de proindigena, Tarea, Lima. 2021を刊行した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究は、南米アンデス地域の海岸部と山間部で現地調査を実施することで、これまでほとんど等閑に付されてきた山間地域の文化に対する海岸地域の文化の影響を実証的に明かにするものとして、令和2年度から令和4年度までの3年間の研究として採択された。しかしながら、研究開始の初年度から世界的な流行を見せた新型コロナウイルスの急拡大により、わが国のみならず、この研究の中で私がフィールドワークを予定していたペルー・エクアドル、チリのいずれの国も出入国が困難な状況となり、その結果、当初予定していた現地調査の時期を変更せざるを得なくなった。そこで今年度は、昨年度に引き続き、手持ちの資料を解析するとともに、インターネットを活用して現地の研究協力者ならびに本邦の研究協力者との意見交換を頻繁に行い、状況が好転したら次年度現地調査にすぐにとりかかれるような態勢を整えてきた。ただし、昨年度、今年度と研究を進めてきた結果、地域のバリエーションが当初想定していた以上に大きく、本研究の肝の一つである実証性を担保するためには、よりきめの細かな調査が必要であることが判明した。そして詳細な調査を行うため、当初の計画を調整することを考えた。具体的には、研究協力者を1名増やして2名とし、その措置に伴う予算増は、本邦で行うことになっている国際シンポジウムをオンライン形式で実施することで、その招待者の旅費で相殺可能と考えている。また、オンライン形式をとることで、世界のより多くの研究者の参加を期待できると思われる。
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今後の研究の推進方策 |
コロナ禍が今後どのように展開していくのか予断を許さないが、しかしわが国も含め、諸外国は一部を除けば、そのリバウンドを警戒しつつも、施策を新しい段階に進めてきているように見える。実際、日本では令和2年に発出された海外への渡航禁止・自粛、帰国に際しての自主隔離等の措置が次第に解除され、2年前の新型コロナ禍以前の状況に近づき、海外渡航や外国人受け入れをめぐる環境は大幅に変化し、本研究の計画時から予定していたアンデス地域での現地調査も可能となってきた。したがって、今後のパンデミックの動向への注視が絶対条件ではあるが、3年目となる今年度は、現地でのフィールドワークを中心としたい。その際、別項でも述べた通り、昨年度実施した手持ちの資料の読み込みと予備的分析の結果、調査地域や調査対象をむやみに拡大するのは、この研究が重視する実証性とデータの詳細さを犠牲にせねばならなくなるということが分かったので、とりあえず、対象地域をペルーを中心に据え、エクアドルとチリに関しては、時間の余裕を見て実施することとし、また、当初予定していた現地の研究協力者2名と日本人研究者1名に、アンデス高地ですでに調査を行い、これまでにも何度も共同研究を行ってきた日本人研究者の協力を要請することで、研究体制を強化する。海岸部と山間地域との交流については、これまでの分析から、土器や海産物(食料、儀礼用品)がもたらされたが、宗教観念(山をめぐる民間信仰)、コスモロジー、儀礼(豊穣儀礼、招魚儀礼、人身供儀など)なども、これまであまり注目されることはなかったが、思いの外、山間地域の文化の基層の形成に大きな影響を与えてきたことが判明してきた。今年度、最後の年になるので、別項にも示したようにこれまでの報告を学術論文の形にまとめ、加えて、ネットを活用して行う国際シンポジウムで発表する研究報告も年内に欧文で論文の形に纏めたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用の理由: 世界で猛威をふるった新型コロナウイルスの影響で、フィールドワークを基にして実証的な研究を進めようとしている本研究は、2020年4月つまり計画の開始から大きな変更を強いられることになった。日本だけでなく本研究の対象地域であるアンデス諸国(エクアドル、ペルー、チリ)の国境が事実上封鎖され、アンデス地域では、ロックダウンと戒厳令の発出が続き、実質的に丸2年の間調査地を訪れることがかなわなかった。しかしその間、オンラインで研究協力を依頼している現地の研究者と意見交換・情報交換を実施しつつ、過去に集めた資料やデータの解析を行いながら、現地調査のできる日を待ってきた。そのために、科研の資金には手を付けず、それが丸々次年度に繰り越されることになった。幸い、このところパンデミックが下火になってきて、わが国もアンデス諸国も外国からの人の流入に寛容となり、次年度は現地調査に入れると思われる。 使用計画: 今年度の予算は、過去2年の予算を浪費することなく蓄積してあるので、その予算を基にして、アンデスの山間地の事情に詳しい日本人研究協力者1名の参加を更に依頼する。なお、パンデミックや世界情勢の変化で、現地調査が引き続きできない場合には、ペルーとチリの研究協力者と話し合い、善後策を検討する。
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