研究課題/領域番号 |
20K01244
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研究機関 | 東京都立大学 |
研究代表者 |
長谷川 貴陽史 東京都立大学, 法学政治学研究科, 教授 (20374176)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 移民 / 難民 / 社会的包摂 / 社会的排除 / 入管 / 入管法 / グローバル化 |
研究実績の概要 |
本研究は、わが国における移民・難民の社会的包摂と社会的排除の様態を、法制度及び社会実態の調査により、法社会学的に分析し、法政策的提言に結びつけることを目的とする。 今年度は国内学会で報告を行った(長谷川貴陽史「移動の自由・コロナ禍・外国人労働者」外国人ローヤリングネットワーク・シンポジウム講演「コロナ禍での移動自由の制限を考える―その妥当性の法的・法社会学的観点からの検討、2022年6月22日)。 また、共著の一部に分担執筆した(長谷川貴陽史「日本における移民・難民の包摂と排除」広渡清吾・大西楠テア(編)『移動と帰属の法理論』岩波書店(2022年8月)、99-121頁)。 前者の報告では、コロナ禍によってとりわけ外国人労働者の移動の自由、なかんずく入国が制限され、かつ政治的・政策的事情によって制限が緩和されていると思われる理由について説明した。 他方、後者の論考は、前半で日本における移民・難民の排除の実態について説明し(法務大臣の裁量権の広汎さ、技能実習生に対する処遇、被退去強制者に対する処遇、難民認定の少なさ)、後半で難民関連訴訟における下級裁判所の判断の中に、難民の包摂の契機を読み取っている(裁判所によるUNHCRハンドブックの参照や引用など)。その上で、それらを踏まえて、論考末尾で包摂に向けた改善策を述べ(技能実習制度の廃止と外国人雇用法制の整備、退去強制令書による収容に期間の定めを置く、収容令書の発付に裁判所が関与する仕組みを作るなど)、同時に、包摂に向けた理念を構想した(外国人の社会統合を図る「同一化志向」ではなく、理解し合えぬまま共存する「了解志向」)。 現在、これらの研究成果を基にした英語論文を執筆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
おおむね順調に進展していると言える。なぜなら第1にコロナ禍の下ではあったが、国内の弁護士向けに報告を実施できたからである(長谷川貴陽史「移動の自由・コロナ禍・外国人労働者」外国人ローヤリングネットワーク・シンポジウム講演「コロナ禍での移動自由の制限を考える―その妥当性の法的・法社会学的観点からの検討、2022年6月22日)。第2に、これまでの成果を共著の分担執筆によって公表できているからである(長谷川貴陽史「日本における移民・難民の包摂と排除」広渡清吾・大西楠テア(編)『移動と帰属の法理論』岩波書店(2022年8月)、99-121頁)。 前者の報告では、コロナ禍によってとりわけ外国人労働者の移動の自由(入国)が制限され、かつ政治的・政策的事情によって制限が緩和されていると思われる理由について説明した。 他方、後者の論考は、前半で日本における移民・難民の排除の実態について説明し(法務大臣の裁量権の広汎さ、技能実習生に対する処遇、被退去強制者に対する処遇、難民認定の少なさ)、後半で難民関連訴訟における下級裁判所の判断の中に、難民の包摂の契機を読み取っている(裁判所によるUNHCRハンドブックの参照など)。その上で、それらを踏まえて、論考末尾で包摂に向けた改善策を述べ(技能実習制度の廃止と外国人雇用法制の整備、退去強制令書による収容に期間の定めを置く、収容令書の発付に裁判所が関与する仕組みを作るなど)、同時に、包摂に向けた理念を構想した(外国人の社会統合を図る「同一化志向」ではなく、理解し合えぬまま共存する「了解」志向)。 ただし、まだ移民・難民等に対する面接調査や質問票調査が不十分である。彼らの生活実態をもう少し明らかにすることが本研究の遂行には有用である。同時に現在、入管法改正が国会で審議されており、この結果を加味した議論を行う必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
今年度の目標として、第1に、移民、難民、避難民に対するヒアリング(面接)調査を実施したい。本年5月、移民・難民等に対する今年度の面接調査に関する申請が学内の研究倫理審査をパスしたので、相手方と通訳さえ見つかれば面接調査は可能であると思われる。 第2に、現在国会で審議されている入管法改正案について検討を加えたい。同法案は衆院を既に通過したので成立する見込みがある。改正の主眼は、非正規滞在者を入国管理施設に長期間収容している状況を改善することにある。そのために難民認定の申請を原則2回に制限し、3回目以降は申請中でも強制送還できるようにし、申請を繰り返す非正規滞在者を削減する。もっとも、この点に関しては野党や弁護士会から強い批判がある。送還忌避者らを迫害を受けるおそれのある国に送還することは、難民条約上のノン・ルフールマン原則に反する、というのが批判の骨子である。この議論の帰趨を見届けるとともに、認定されるべき難民とそうでない難民認定申請者とを峻別できる制度設計を模索したい。 また、本年4月10日、政府の有識者会議は技能実習制度を廃止し、新制度への移行を求める方針を提示した。新制度は技能実習生の転籍(職場変更)をも認める見込みである。技能実習制度の問題点については上記共著所収の論考でも指摘したところであり、この制度変更が外国人労働者の境遇をどのように変化させるかを追尾することも重要な課題である。 さらに、社会学における包摂と排除の議論を踏まえ、移民や難民をどのように把握するか、理論的な検討を深める必要があると考えている。昨年度も記したが、社会システム理論において、移民、難民、避難民等をどのように位置づけるかが重要である。国民を一方の極、非正規滞在者を他方の極とする、社会的包摂のスケールの中に様々な在留外国人を位置付け、その権能や資格等を整理してゆきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
第1に、昨年度と同様であるが、コロナ禍が収束せず、社会調査(面接調査や質問票調査)が困難であったからである(このため旅費、準備に要する諸費用、謝金等が不要となった)。 第2に、コロナ禍のため、国内外の学会・研究会・シンポジウムはすべてオンラインとなり、私はシンポジウム報告を行ったもののオンラインであったため、旅費・宿泊費等は不要となったからである。 そこで、次年度の使用計画であるが、コロナ禍はやや沈静化してきたため、対面の面接調査や質問票調査も可能になりつつあると考えられる。そこで、移民、難民、避難民に対する面接調査や質問票調査、さらにもし可能であればインターネットを利用した質問票調査を実施したいと考える。 助成金は調査対象者への謝金や、調査会社に対する費用の支払い、調査票作成に必要な書籍やソフトウェアの購入費用に費消する予定である。
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