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2021 年度 実施状況報告書

法整備支援のパラドクスの発生原因と解消方策に関する開発法学的研究

研究課題

研究課題/領域番号 20K01246
研究機関慶應義塾大学

研究代表者

松尾 弘  慶應義塾大学, 法務研究科(三田), 教授 (50229431)

研究期間 (年度) 2020-04-01 – 2025-03-31
キーワード開発法学 / 法整備支援 / 法の支配 / 法遵守の文化 / 法整備支援のパラドクス
研究実績の概要

2020年度のカンボジアに続き,2021年度はベトナムに焦点を当て,検討を進めた。ベトナムは,社会主義体制の下,1980年代後半から市場システムの導入を進め,外国投資の促進を図りつつ,国内の開発を進めてきた。ベトナムは,法制度整備にも積極的に取り組み,日本が継続的に支援してきた民事基礎法の分野では,1995年,2005年,2015年と民法典を更新するプロセスで,当初の社会主義の色彩を反映した規定ぶりが,次第に市場経済取引の促進を一歩先にリードするタイプの規定導入へと変化を示した。特に契約自由の実質化,無権利者との取引,無効行為および無権代理行為に対する第三者保護規定の強化,家族の法主体性の見直し等に,そうした傾向が顕著にみられる。
一方,ベトナムにおける法の支配の進展は,世界銀行のガバナンス指標(Governance Indicators)における法の支配指標(-2.5が最低,2.5が最高)によれば,法整備支援が始まって間もない2000年時点では-0.57であったが,2015年時点では-0.31となり,この間,カンボジア(2000年時点で-0.38,2015年時点で-0.93)と逆転現象が起こった。その後,ベトナムは,2018年0.00,2019年-0.02,2020年-0.13となっている。また,World Justice Projectの法の支配指標(0が最低,1が最高)によれば,ベトナムは,2015年時点で0.50,2019年時点では0.49(0.01低下)となり,その後,2020年,2021年と0.49となっている。この間,カンボジアは,2015年0.37,2019年0.32,2020年0.33,2021年0.32であった。
法整備の進展が,経済成長の継続と相俟って,法の支配を漸進させてきた一方,2015年以降は法の支配の停滞も見られ,その原因を探求する必要がある。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

研究計画に従い,2020年度のカンボジアに続き,2021年度はベトナムに焦点を当てて考察した。
カンボジアでは,1990年代からの法整備支援の継続にもかかわらず,法の支配指標は,2000年代以降悪化し,その後2010年代から2020年に至るまで,停滞を続けている。
これと対比すると,同じく1990年代から法整備支援が継続されてきたベトナムでは,2000年代には法の支配指標の顕著な改善がみられ,対照的な差異が見出された。しかし,2015年以降は,2021年に至ってもなお,法の支配の進展が鈍ったままとなっている傾向が続いていることを確認した。
そこで,法の支配の進展におけるこうした相違と傾向が生じている理由につき,法整備支援による法整備の進展の実質,とりわけ,関連法規定相互間の整合性,法整備の成果と法実務における実施状況,国家全体のGDPの成長と国民1人当たりGDPの成長との関係をはじめとする経済発展の内実,政治状況の内実およびその変化との関係をも踏まえ,さらに分析を加える必要がある。

今後の研究の推進方策

2022年度は,ミャンマーに焦点を当てて,考察を進める。ミャンマーは,2020年度,2021年度に検討したカンボジア,ベトナムと異なり,インドとともにイギリスの植民地支配を受け,コモン・ローの影響が強い独特の法制度を維持しつつ,2010年代から急速に外国投資を取り込んで開発を進めてきた。その後,民主化の進展がみられ,経済成長が続いてきたが,2020年2月の軍政開始後,多くの外国資本が投資を引き上げ,国内生産も影響を受け,市民生活にも大きな影響が生じている。こうした中,法の支配の進展が停滞している理由につき,評価指標の構成項目ごとに,制定法の現状に照らして求められる法整備の順序や,軍政から民政への移行プロセスにおけるミャンマーの政治的・経済的・社会的状況を踏まえて分析する。
このことを踏まえ,ミャンマーに対する法整備支援の特色につき,国際機関,外国政府,NGO等の支援機関ごとに,カウンターパートの限定性(閉鎖性),プロジェクトの内容,成果,現状等について個別的に分析し,ミャンマーにおける法整備支援のパラドクスの存在,その理由,およびその影響について考察する。

次年度使用額が生じた理由

入手予定の文献の出版が予定より遅れ,年度内に入手することができなかった。
すでに発注を済ませており,次年度には入手予定である。

  • 研究成果

    (7件)

すべて 2022 2021 その他

すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 1件) 図書 (3件) 備考 (1件)

  • [雑誌論文] 所有者不明土地問題の解決に向けた民事基本法制の見直し2022

    • 著者名/発表者名
      松尾弘
    • 雑誌名

      法律のひろば

      巻: 74-10 ページ: 36-44

  • [雑誌論文] 土地基本法改正から民法・不動産登記法改正等へ2022

    • 著者名/発表者名
      松尾弘
    • 雑誌名

      市民と法

      巻: 133 ページ: 41-48

  • [雑誌論文] 共有物の管理に関する民法改正の意義と特色2021

    • 著者名/発表者名
      松尾弘
    • 雑誌名

      RETIO(不動産政策研究)

      巻: 123 ページ: 21-28

    • 査読あり
  • [図書] Property and Trust Law in Japan2021

    • 著者名/発表者名
      Hiroshi Matsuo
    • 総ページ数
      296
    • 出版者
      Wolters Kluwer
    • ISBN
      978-94-035-3475-6
  • [図書] 物権法改正を読む2021

    • 著者名/発表者名
      松尾弘
    • 総ページ数
      169
    • 出版者
      慶應義塾大学出版会
    • ISBN
      978-4-7664-2759-2
  • [図書] 所有者不明土地の発生予防・利用管理・解消促進からみる改正民法・不動産登記法2021

    • 著者名/発表者名
      松尾弘
    • 総ページ数
      256
    • 出版者
      ぎょうせい
    • ISBN
      978-4-324-11013-3
  • [備考] 慶應義塾大学大学院法務研究科・慶應グローバル法研究所(KEIGLAD)・ワーキングペーパー

    • URL

      https://keiglad.keio.ac.jp/working/

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公開日: 2022-12-28  

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