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2023 年度 実施状況報告書

法整備支援のパラドクスの発生原因と解消方策に関する開発法学的研究

研究課題

研究課題/領域番号 20K01246
研究機関慶應義塾大学

研究代表者

松尾 弘  慶應義塾大学, 法務研究科(三田), 教授 (50229431)

研究期間 (年度) 2020-04-01 – 2025-03-31
キーワード開発法学 / 法整備支援 / 法の支配 / 法遵守の文化 / 法整備支援のパラドクス
研究実績の概要

本研究は,開発途上国における法・司法制度の整備および裁判官・検察官・弁護士等の法曹の養成に向けた国際協力(以下,法整備支援という)が,法の支配(the rule of law)の進展に効果的に作用せず,支援する側および被支援国の条件次第では,法整備支援のゆえにかえって法の支配を停滞または後退させてしまう現象(以下,法整備支援のパラドクスという)が生じている事態に着目する。そして,法整備支援が行われてきた被支援国のうち,法の支配の指標上の停滞がみられるカンボジア,ベトナム,ミャンマーおよびインドネシアを取り上げ,法整備支援のパラドクスが存在するか,存在するとすればその原因は何かを,各国に特有の状況を考慮に入れて個別的に分析する。それを踏まえ,パラドクスの解消に向けて必要かつ有用と考えられる方策について,各国の政治・経済の発展プロセスとの関係において法発展の動態を探求する開発法学の観点から考察することが,本研究の目的である。
2023年度はインドネシアを取り上げた。インドネシアはオランダの植民地支配を受け,大陸法の影響下で,複数地域の慣習法を公認し,イスラム法の影響が強い地域もある。そうした法の多元性を考慮に入れ,法の支配の評価指標の構成項目ごとに,慣習法によって異なる土地法や旧植民地時代のままの制定法(オランダ語)の存続,それを前提とする司法制度の機能障害等に着目して分析した。その結果,民事・刑事の基本的法分野における司法サービスの公平な提供に課題が見出された。その一方で,インドネシアに対する法整備支援の特色として,法の多元性ゆえに,基本的法制度の改革支援が回避され,裁判外紛争解決,特別法の整備支援等に人的・物的資源が投入されてきた点に着目し,対象となる法制度および育成人材の限定性と,法制度全体の整備と市民の司法アクセスの現状との関連性を考察した。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

研究計画に従い,カンボジア,ベトナム,ミャンマー,インドネシアを対象にして,法整備支援の現状を確認し,法整備支援のパラドクスの発生状況を考察した。
カンボジアでは,1990年代からの法整備支援の継続にもかかわらず,法の支配指標は停滞を続けている。これに対し,同じく1990年代から法整備支援が継続されてきたベトナムでは,2000年代には法の支配指標の顕著な改善がみられ,対照的な差異が見出された。しかし,2015年以降は,法の支配の進展が鈍ったままとなっている。また,2000年代から法整備支援が行われてきたミャンマーでは,2010年代の民主化と相俟って,外国投資を促すことによる経済開発のための法分野に力点が置かれ,金融システム,会社法,知的財産法,裁判外紛争解決等に対する法整備支援が強化された。しかし,こうした特別法の改革の傍らで,市民の基本的な権利を保護・実現するために必要な民法,不動産登記法,民事訴訟法,民事執行法等の最も基礎的な一般法の改革が放置される結果となり,不透明かつ非効率な法的インフラが存続しており,このことは法の支配の評価指標の低下にも明らかに表れている。さらに,オランダの植民地支配を受け,大陸法の影響下で各地域の慣習法が公認され,イスラム法の影響が強い地域もあるインドネシアでは,法制度の多元性および旧植民地時代の制定法(オランダ語)の残存の下で,民事・刑事の基本法分野での公平な司法サービスの提供に課題が見出される。その一方で,法制度の多元性ゆえに,法整備支援の対象が基本法分野よりも,裁判外紛争解決,特別法の整備等に向けられ,育成人材や利益享受の対象が限定されるというジレンマを生じていることが確認された。

今後の研究の推進方策

今後は,研究の総括に向けて,カンボジア,ベトナム,ミャンマー,インドネシアの各国に特有の事情を踏まえ,独特な形態における法整備支援のパラドクスを分析し,対応方法を検討する。具体的には,①法整備支援のパラドクスにはどのような類型が見出されるか,②そうした様々な形態のパラドクスの発生原因およびメカニズムは何か,③様々なパラドクスの発生原因およびメカニズムに照らして,その解消に向けて必要かつ有効な法整備支援の方策は何かについて,検討を行う。その際には,法の支配の指標上の変化といった短期的な成果を求めるのではなく,各国の法整備がその歴史的条件と政治・経済・社会の現状に照らして,自律性を高める方向に進もうとしているかどうかという観点を重視して考察を進める。

次年度使用額が生じた理由

予定していた対象国での調査の一部を実施することができず,そのための資料の収集および整理業務の補助者への謝金を支出することができなかった。
次年度は,当初の計画に従い,これらの調査および資料の収集・分析のために,未使用額を充てる。

  • 研究成果

    (4件)

すべて 2024 2023

すべて 雑誌論文 (2件) 学会発表 (1件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件) 図書 (1件)

  • [雑誌論文] 法律進化論と開発法学2024

    • 著者名/発表者名
      松尾 弘
    • 雑誌名

      社会の多様化と私法の展開

      巻: - ページ: 361-377

  • [雑誌論文] 法整備支援と日本の法学ーーアジア近代法史の一側面2023

    • 著者名/発表者名
      松尾 弘
    • 雑誌名

      法と文化の制度史

      巻: 3 ページ: 71-115

  • [学会発表] The Culture of Lawfulness as a Foundation of the Rule of Law2023

    • 著者名/発表者名
      Hiroshi Matsuo
    • 学会等名
      日本ASEAN特別法務大臣会合・G7司法大臣会合司法外交閣僚フォーラム 開催記念特別イベント
    • 国際学会 / 招待講演
  • [図書] 土地所有を考える2023

    • 著者名/発表者名
      松尾 弘
    • 総ページ数
      267
    • 出版者
      日本評論社
    • ISBN
      978-4-535-52600-6

URL: 

公開日: 2024-12-25  

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