研究実績の概要 |
本研究は、無権限者の行為をなぜ追認できるのかという問いを解明するために、無権限者の行為の法的構成を類型化して、追認対象となる行為の範囲を明らかにすることを目的とする。本年度中は次の点につき研究を進めた。前年度から取り組んでいるD. 3,5,5,11-12(Ulp. 10 ad ed.)を中心に法史料の検討をさらに進め、事務管理成立事案における債務者の免責問題と関連付けて研究を行った。 具体的には次の通りである。管理者が本人を誤信して管理した場合に、誰の事務であるかは客観的に決まるのが原則とされるものの、主要法史料と位置付けるウルピアーヌスのD. 3,5,5,12においては、管理者が表見相続人のために債権回収した場合に、表見相続人の追認によって表見相続人と管理者間で事務管理が成立するとされる。この事務管理成立後に真正相続人は表見相続人に対して相続財産回復請求権を持つことになる。このことから、ウルピアーヌスは債務者が支払った金銭については表見相続人と真正相続人間で決着をつけさせることを想定していると考えられるところ、債務者の免責については当該法史料は言及していない。先行研究においては、債務者の免責時点について見解が分かれている。 具体的な成果として発表するには至らなかったが、ローマ法研究会(九州大学、令和5年12月7日開催)において、「表見相続人の追認による事務管理成立事案における債務者免責問題」と題して、報告した。報告に対する意見などを踏まえて、令和6年度に成果を公表する予定である。
|