研究課題/領域番号 |
20K01251
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
桑原 朝子 北海道大学, 大学院法学研究科, 教授 (10292814)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 信用 / 意識 / 大坂商人 / 共同体 / 連帯 / 近松門左衛門 / 相互扶助 / 樋口一葉 |
研究実績の概要 |
2年目にあたる本年度は、近世日本における隔地間取引と為替制度の発展の背後に、信用をめぐる、いかなる人々のいかなる意識が存在し、またそれが通時的にいかに変容するかについて解明することを中心的に試みた。特に初年度の研究から、大坂における商業信用の突出した発達が窺えたため、主に大坂商人の意識を、他の都市の商人と比較しつつ、上方の文芸や、商家の家訓・家法などの分析を通じて明らかにするように努めた。 その結果、都市による意識の差もあるが、御用商人か否かといった、幕藩権力との関係の強弱も、他の商人との関係の築き方やその間における信用の供与の仕方に大きな影響を及ぼしていることが分かった。また、近世を通じて、商人が、同業者仲間や町といった、職縁・地縁・血縁等による、時に重なり合う様々な共同体に属しており、それらが、構成員への信用の供与に大きな役割を果たしていたことが窺えた。こうした共同体は、連帯的精神のもとに、その内部では相互扶助的な信用の供与を行うことが多いが、一方で、その強固な連帯が、構成員を相互に監視させ、他の構成員に迷惑をかけた者を追い詰めてゆくという方向に働きがちであったことも、とりわけ近松門左衛門の作品には、はっきりと描かれていた。このような多様な共同体は、その相互関係や権力との関係を複雑に変化させつつ長く存続してゆくが、明治期に入ると、大都市を中心にその弱体化が顕著になり、共同体的連帯に基づく相互扶助的な信用も成り立たなくなってゆくことは、当時の樋口一葉の日記などから明らかになった。 また、こうした近世から近代初期の日本のテクスト分析の作業と並行して、初年度と同様に、信用に関する2つの研究会にも参加を続け、異なる地域や時代の様々な信用問題に関する報告を聞き、視点の多角化や考察の深化に役立てた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
初年度に引き続き、新型コロナウイルスの感染拡大の影響により、予定していた大阪における資料収集・史跡調査が実施できず、東京での資料収集も他大学図書館の利用時間の制約などにより十分には行えなかったため、考察の材料が不足し、初年度以来の疑問点の一部が解消されずに残った。また、比較の対象としての17~18世紀のフランスにつき、パリでの資料収集を予定していたが、これも実施できず、比較研究の部分は後回しにすることとした。 したがって、当初の研究計画に比すると遅れは否めないが、その一方で、2年目に行うことは予定していなかった、近世後期から近代初期の文献調査や史料分析に着手し、信用をめぐる意識の変化について、いくつかの重要な手掛りを得ることができたため、全体として見ると、実質的にはやや遅れているという程度であると言える。
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今後の研究の推進方策 |
次年度以降も、新型コロナウイルスの感染状況により、国内外での現地調査が予定通り実施できるか見通しがきかない状態である。よって、できる限り、図書館の相互貸借などを活用する形で資料を取り寄せ、時代順などにかかわらず、入手できた史料から分析に取りかかることで対応する。特に、信用をめぐる意識の解明に重要な役割を果たす文芸史料や制度の変遷に関わる法制史料は、比較的入手しやすく、一部は既に分析も行っているため、引き続きこれらの分析を先に進める。 また、次年度以降も、研究会はオンラインで行われる可能性が高いため、積極的に参加して、論点の精緻化や考察の深化を試みる予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルスの感染拡大の影響により、所属機関の行動指針レヴェルが上がり、訪問予定の他大学図書館等の利用の制約も厳しくなったため、予定していた大阪における資料収集・史跡調査と、比較対象であるフランスにおける資料収集が行えず、そのための旅費が残額となった。また、発注済の洋書で納品が遅れているものも多少存在する。 この残額については、新年度の研究費に合算し、納品が遅れている洋書については、入荷次第支払い、また、感染状況が落ち着いた時点で、資料収集や史跡調査の旅費として使用する。資料の郵送による取り寄せも増加することが予想されるため、その費用にも充てる予定である。
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