研究課題/領域番号 |
20K01253
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
源河 達史 東京大学, 大学院法学政治学研究科(法学部), 教授 (10272410)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 中世教会法 / 古典教会法学 / 史料研究 / 文献学 / 写本研究 / グラティアヌス教令集 |
研究実績の概要 |
2021年度も、アルプス以北の教会法学の成立とその特徴に関する研究を継続した。 ケルンの教会法学については、収集した画像史料と所蔵館のサイトで閲覧可能となった写本史料を用い、グラティアヌス教令集註釈書Summa Antiquitate et tempore(以下SAT)の形成過程に焦点を当てた研究を行った。具体的には、SATの作成に際して用いられた先行史料をSATと校合し、先行史料がどのように使われているか、すなわち、何が採られ、何が捨てられ、どこに修正が加えられたのかを史料全体にわたって確認した。形成過程の研究は、それ故、先行著作を前にして著者が何をしようとしたのか、その思考過程を辿る試みでもあり、取捨選択や書き換えとして表現されるSATの特徴を明らかにする試みでもある。また、各史料につき複数の写本を校合するため、写本伝承の解明にもつながる。 特に重要な成果は、これまでSATの作成に用いられたことが知られていなかった史料について、使用されたことを確認できたこと、SATを清書した写字生の誤りがそれと気づかれないままに伝承した箇所が判明し、実際の執筆作業がどのように行われたのかを明らかにすることができたこと、現存する2つの形(版)の相互関係について、1つの見通し(仮説)を持つことができたこと、である。 パリの教会法学に関しては、2021年度に発表した論文で考察対象としなかった註釈書Summa Inter ceteraの研究に着手した。個々の註釈について、グラティアヌス教令集のどこに対する註釈なのかが明示されておらず、作成に際して用いられた先行史料も明らかにされていないため、それらを一つ一つ特定することから始めなければならなかった。これまでのところ、幾つかの註釈について先行史料からの引用であることが確認できたにとどまる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
ケルンの教会法学について。学会がコロナ禍により延期されたため、予定されていた学会報告を2022年度に行うこととなり、当該報告に基づく論文発表もその分遅れることとなった。国内で行うことのできる部分については概ね順調に進んでいる。 パリの教会法学について。ほぼ順調に進んでいるが、唯一Summa Inter ceteraについて、当初の予定より進捗がやや遅れている。グラティアヌス教令集のどこに対する註釈なのかが個々に示されていないこと、用いられた先行史料が明らかにされていないこと、等から、他の史料と比べて難しい史料であることが主な理由である。
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今後の研究の推進方策 |
コロナ禍で延期されていた学会の開催が決まったため、研究報告を行った上で、論文として発表する。 1つはSumma Antiquitate et temporeに関するものであり、その形成過程を明らかにすることを通じて、アルプス以北における初期教会法学の成立とその特徴・独自性に関する議論を行う。もう1つは同時期の教会法学の在り方そのものを対象とする研究報告であり、アルプス以北の古典教会法学の特徴について、11世紀以降の教会法の発展を視野に入れた議論を行う予定である。 前者は英語で、後者はドイツ語で論文として発表する。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じたのは、コロナ禍により参加を予定していた学会(3つ)が延期されたほか、予定していた海外での史料調査を行えなかったためである。今年度には学会が再開され、海外渡航も可能となるため、図書や画像史料の購入の他、学会報告と史料調査のために支出する予定である。
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