研究課題
近年、地方自治体に常勤職員として勤務する弁護士(以下「自治体内弁護士」)が増加している。背景として、地方自治体は人的資源が減少する一方、複雑化する社会問題や多様化する市民ニーズに伴い、高い法的運用能力が求められている点が挙げられる。本研究は、自治体内弁護士が行政現場部署の法の実施・執行に及ぼす影響と役割について、理論的・経験的な研究を行うものである。研究の対象は、地方自治体の本庁および児童相談所としている。本年度は、第一に、昨年度に引き続き、文献調査を通じ理論的枠組みの構築を進めた。特に、Law & Society分野における弁護士研究と、第一線公務員研究から大いに示唆を得た。近年、国家と法曹の関係性についての経験的研究が複数報告され、それらにおいても法曹と国家の担い手の境界線がファジーになってきている点が指摘されており、本研究課題の分析対象と似た傾向があった。第二に、コロナ禍のため研究参加者の募集が滞ったものの、インタビュー調査を実施した。特に、自治体内弁護士のみならず、複数の行政組織(法務担当職員と管理職双方)にインタビュー調査ができたのは研究遂行上重要な進展であった。第三に、Law & Society Association Annual Conferenceと、Asian Law & Society Association Annual Conferenceにおいて本研究の現時点での研究知見を報告した。特に、Asian Law &Society Association学術大会では、「Legal Professions and State Powerと題したパネルを企画し、カナダ、台湾の研究者とともに研究報告を行なった。活発な質疑応答もいただき、有意義なパネル報告となった。第四に、本研究を進めていく上で、弁護士研究の知見を活用することは非常に重要であり、この点、弁護士研究を行なっている海外研究者からなるグループに所属し、定期的にオンラインで開催される研究会に参加している。
2: おおむね順調に進展している
コロナ禍によりインタビュー調査への研究協力者の募集に滞りがあるものの、自治体内弁護士のみならず、行政職員を対象とするインタビュー調査を、担当職員レベルと管理職レベルそれぞれに対して複数実施できた。引き続き文献調査を通じた理論的枠組み構築を重ねている。国際学会報告も行なった。概ね順調に進捗していると評価した。
来年度も、引き続き文献サーベイを通じた理論的枠組みの精緻化を目指す。同時に、インタビュー調査の実施により力を入れ、経験的データ獲得に努める。
コロナ禍に伴い、当初予定のインタビュー調査実施数が減少したことと、一部オンラインでのインタビュー調査に変更したことから、次年度使用額が生じた。ウィズコロナを踏まえ、来年度以降は対面でのインタビュー調査を実施することを計画している。
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Regulation & Governance
巻: 15 (4) ページ: 1388-1405
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法学教室
巻: 491 ページ: 57-61