本研究は、ドイツ連邦憲法裁判所が展開し、ヨーロッパ諸国だけでなく、カナダ、イスラエル、南アフリカなどでも採用され、司法審査の「グローバル・モデル」とも言われるようになった比例性原則に基づく司法審査について、比較法的手法も用いつつ法哲学的な観点から理論的に検討し、比例性原則による司法審査の普遍的な可能性を探ることを目的とする。 令和2年度はこの分野の理論的研究で注目されているドイツの法哲学者R.アレクシーの基本権と比例性原則に関する理論を検討して、「アレクシーの基本権論と比例性分析論」(『法政研究』第88巻第1号)として公表し、令和3年度は、比例性原則による司法審査の「例外」とされるアメリカ合衆国最高裁の司法審査理論の検討を行い、「合衆国司法審査理論と比例性アプローチ(上・下)」(『法政研究』第88第3・4号)として公表し、さらに、令和4年度には司法審査一般に消極的な規範的法実証主義の議論を比例性原則の観点から批判的に検討して、令和4年度日本法哲学会の統一テーマ「現代法実証主義」において「法実証主義の規範的主張の批判的検討」として報告した(『法哲学年報2024』)。 令和5年度は以上の研究に基づき、比例性審査についての法哲学的観点からの理論的検討を「比例性審査と比較衡量」(『法政研究』第90巻第2号)としてまとめた。司法審査が基本的に比較衡量と国家行為の規範的評価という二つの側面をもつものとして構造化されうることを示し、各国の比例性審査と合衆国のいわゆる「三層審査」がその相違にもかかわらずこの基本構造の点で異ならないことを確認し、さらに比例性審査における比較衡量以外の審査手法とされるものを分析し、とくに狭義の比例性審査についてのR.アレクシーの理論の問題点を検討して、最後に比例性原則に基づく司法審査の普遍的可能性を確認するとともに、我が国の司法審査への示唆を簡単に付した。
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