研究課題/領域番号 |
20K01259
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研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
守矢 健一 大阪市立大学, 大学院法学研究科, 教授 (00295677)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 裁判 / 法 / 法解釈構成 / 法の自律 / 儀礼 / 法と政治 |
研究実績の概要 |
法解釈構成(Dogmatik)と社会との関係の省察を具体的に行うために「村上淳一のニクラス・ルーマン法理論受容について」を『思想』1171号に掲載した。また、日本における裁判イメージについて「日本憲法学における『裁判を受ける権利』の把握の一側面」をマルチュケ教授退官を記念する論文集『同志社法学』424号に掲載した。これは日本におけるイェリネク受容と関わらしめた考察である。この仕事は、以前から進めているバホフ研究との関係でも重要なものになった。バホフが行政訴訟について考察する際に重要な箇所でイェリネクに言及しているからである。また、フランス法の大家野田良之の問題関心と接続することができたことも嬉しかった。野田良之を媒介して、ジェルネの「法と前法」という巨大な問題群に接近する手がかりがつかめたからである。 最大の成果としては、消費貸借という取扱注意の領域に手を染めたことがある。ここでも大きな危険を防ぐためにサヴィニにおける消費貸借論に光を当て、サヴィニにおける消費貸借と債権法全体との関連を探る試みを行った(ある記念論集に寄稿し近日公表予定)。こちらも実力強制と儀礼と法の厄介な関係を考察する上で、見通しをつかんだとは決して言えないものの、どこにこの問題群の怖さがあるかを探ることができた。またサヴィニにおける消費貸借と占有論との緊密な連動にも納得できた。これは、裁判を支えるメンタリティの把握にとって重要で、今後も永く追跡したい。 大学の学部学生に向けた演習において、H.L.A.Hart の名高い法概念論を熟読できたことも、重要だった。法の核心を捉えるためには裁判所から出発すべきでないという周知の事実を腑に落ちて理解し得たから。むしろ裁判を支える社会的メンタリティこそが重要である。 なお、旧東独の法解釈論史に関するドイツ語の仕事の翻訳を行っており、得るところが極めて大きかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
自分としては思いがけず本年度は脱稿した論文の点数が多かったし、ほぼすべてが法、社会、裁判、法解釈構成の回りをへめぐるものとなっているから。しかも、2022年度には、バホフ研究のみならず、サヴィニに端を発する消費貸借論をめぐる学説史を追求するという重要な手がかりを獲得したことはかなり大きいのである。この線は、20世紀のデュルケムらによるフランス社会学の洞察とも一脈通ずるところがあるからである。また2022年の初夏から盛夏にかけて、念願の、チューリヒ研究滞在が実現しそうで、リープレヒト教授との集中した討議ができそうなのである。自分としてはめずらしく、研究は順調に進展していると言いたい気がする。
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今後の研究の推進方策 |
何より、サヴィニ以降の消費貸借論を学説史的に追跡する。とくにHuschke のnexum論を深く分析したい。これはサヴィニ雑誌への掲載を目指したい。チューリヒで5月から8月まで客員教授として滞在予定であり、同地において、リープレヒト教授との議論を深めたい。そのほか、バホフ研究に一定のめどをつけることがもう一つの具体的な目標で、これは、あるシンポジウムのための講演の原稿の完成として形にしたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
この科研申請は、2019年の申請段階では海外渡航を利用して、ドイツをはじめとするヨーロッパ各地の学者との徹底した討論を目論んでいたが、コロナ禍が継続しその計画への見通しが、2020年度に引き続きこの年度にも立たなかったのが最も大きい理由である。但し、2022年度にスイス・チューリヒへの在外研究の目途が立ちそうであり(2022年3月末の状況)、同年8月にチューリヒで開催される法制史学会にも参加したいと考えている。その折に計画通りの支出が生ずることと思う。
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