研究課題/領域番号 |
20K01263
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研究機関 | 同志社大学 |
研究代表者 |
武藏 勝宏 同志社大学, 政策学部, 教授 (60217114)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | イニシアティブ / 拒否的国民投票 / 廃止的国民投票 / 二重の賛成 / 棄権運動 / プレビシット / 諮問型一般的国民投票 |
研究実績の概要 |
今年度は、国会の立法過程への直接民主制的制度導入の可否の検討をスイス、イタリア、フランスと日本の比較研究を中心に実施した。日本国憲法は、間接民主制を採用し、法律が国会の議決のみで成立するのに対し、憲法改正のためには国民投票が必要であり、日本においても、2007年に憲法改正のための国民投票を実施する手続き法が成立した。同法の成立に際しては、国政上の重要問題に関する一般的国民投票制度の検討が委員会において附帯決議され、政治的な課題として位置づけられるようになった。今年度は、日本における諮問型の一般的国民投票制度の導入の可否について、拘束的な国民投票制度を採用している先進各国の制度や運用の比較を通じて考察を実施した。憲法で国民投票を制度化しているスイス、イタリアでは、憲法改正に関するイニシアティブや法律制定後の拒否的国民投票または廃止的国民投票について、国民からの発議を制度化し、立法に対する国民からの提案や事後的な統制を可能としている。これに対して、日本では、憲法41条や59条の規定から、拘束的な国民投票制度は不可能なものの、諮問型の一般的国民投票の導入は可能である。先進各国の事例との比較から、一般的国民投票について国民からの発議を可能とすることや、一般的国民投票に加えて廃止的国民投票を現行法に対する国会の立法判断の材料とするなどの活用、国民からの提案に対する国会における十分な検討と精査などの仕組みを取り入れること等が、諮問型の国民投票の制度化やその運用において必要かつ有効であることを示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究は、半直接民主制の理論的な検討・再整理を実施したうえで、日本を軸とした比較分析の観点から、比較対象国での現地調査を予定していたが、コロナ禍での渡航禁止により、令和4年度においても渡航しての調査が実施できなかった。一方、半直接民主制の下での政府、議会と国民の権限配分に関する理論的な枠組みの体系化を構築し、当該体系的な理論モデルのもとでの実証分析を取りまとめ、国内外の学会での報告を行うこととしていた。令和4年度では、日本語の論文として、「半直接民主制における議会の立法過程と日本への示唆」と題する論考を『判例時報』 2526号に掲載した。また、英語論文として、2022年12月の2022 Asian Law & Society Associationの年次研究大会 (Hanoi)において、「Should a Direct Democratic System be Introduced in Japan’s Legislative Process?」のタイトルで報告を行った。しかし、依然として、コロナ禍での渡航禁止により、現地を訪問し、当該国の研究者の協力を得て、現地での専門研究者との意見交換やインタビュー・資料収集等の方法による実態調査を実施することができず、このことが、研究の進捗状況の遅れに影響することとなった。
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今後の研究の推進方策 |
令和4年度には、文献調査と実証研究を軸に、日本の地方自治体における住民発案に関する実証分析を行い、「Functions and Changes of Residents' Initiatives in Japanese Local Governments」及び「日本の地方自治における住民発案の現状と住民投票制度の検討」のタイトルで、国内外の学会において研究報告を行うとともに、欧米諸国を中心とする半直接民主制における国民発議のイニシアティブや国民投票の機能の比較分析と日本への応用可能性についての検証を実施し、論文や国際学会での報告を行った。令和5年度には、本研究の最終的な取りまとめとして、新型コロナ感染症を原因とする渡航禁止が解禁になった諸国において、順次、現地を訪問し、当該国の研究者の協力を得て、専門研究者との意見交換やインタビュー・資料収集等の方法による実態調査を行い、国政及び地方自治における立法過程の事前・事後における国民(住民)の参加の理論と制度について、さらに精緻な分析と考察を深め、半直接民主制下での国民・議員・長の間の立法権限の配分のあり方について結論を得ることしたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度の当初計画では、ヨーロッパ諸国と日本の比較を通じて、半直接民主制としての国民発案や国民投票制度の役割と問題点を解明するため、ヨーロッパ諸国での実態調査を実施することを予定していた。また、国際学会での報告も予定していたが、コロナ禍の渡航制限のため、取りやめとなった。上記の国外での活動が中止に至ったことが、次年度使用額が生じた主な理由である。令和5年度には、海外への渡航制限が解除されることを前提に、ヨーロッパ諸国での国民発案・国民投票制度に関する実態調査を現地訪問によって実施するとともに、国際会議での対面での報告を実施する予定である。以上により、令和5年度は海外での現地調査の渡航費や国際会議への参加費、研究遂行に必要な外国語文献の購入や執筆論文の英訳翻訳費などに使用することを計画している。
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