今年度は、EU(欧州連合)における欧州市民発案制度(ECI)を取り上げ、同手続きを可能にした要因として電子的に署名を収集する仕組みの採用を示した。ただし、署名収集に成功した事例は1割に満たず、ECIが十分に機能していない原因には、個別のオンライン署名収集システムのコストや、ECI主催者グループに対する組織的支援の欠如などが挙げられる。EUの民主主義の赤字を克服するためには、ECIへの市民の積極的な参加を高めることが必要であり、EU当局と市民のコミュニケーションの活性化を提案した。この電子的な直接民主主義の手法は、電子投票化にも示唆を与える。日本における具体的な電子投票の事例を分析し、そのあり方を検討した。次に、補助事業全体を通じて実施した研究では、日本の地方自治における住民発案と住民投票の制度・運用の分析を行った。特に、住民発案の成立率は低く、議会の否決に対して、改めて請求案を住民投票にかける仕組みがないという制度的な限界がある点、多くの地方議会では、首長の与党化し、住民発案を議会が否決するケースが圧倒的に多い点を指摘した。他方で、1990年代以降、原発や米軍基地、産廃、公共施設の建設等をめぐって、条例に基づく住民投票が活発に行われており、住民投票が地域の課題解決において、議会のチェック機能を代替しうる点を示した。一方、各国の国民投票の比較分析を行った。スイス、イタリアでは、憲法改正に関するイニシアティブや法律制定後の拒否的国民投票または廃止的国民投票について、国民からの発議を制度化し、立法に対する国民からの提案や事後的な統制を可能としている。これに対して、日本では、拘束的な国民投票制度は不可能なものの、諮問型の一般的国民投票について国民からの発議を可能とすることや、廃止的国民投票を国会の立法判断の材料とするなど、国民からの提案を立法過程に反映させることの必要性を示した。
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