本年度は、国内外の出張を実施することができ、対面型コミュニケーションという点で非常に意義深い活動を行うことができた。 公表した研究成果としては、2023年5月21日に開催された日本選挙学会での報告の内容をまとめた、栗田佳泰「憲法上の公正な政治教育の義務と教育における『中立性』の観念」法政理論56巻2号(2023年)1-27頁がある。同論文では、本研究のテーマである学校における宗教的出自の多様な子どもの信教の自由について考察を深める前提として、政治的中立性をとりあげた。同論文は、政治的中立性との類比の下で宗教的中立性について考察すべきであり、政治にまったく触れない教育が妥当ではないのと同様に、宗教についてまったく触れない教育もまた妥当ではなく、学校における宗教教育が宗教的マイノリティの受入のために必要であると主張する。 また、2024年2月、本研究当初から計画していたカナダ訪問を実現することができた。本務との調整上、一週間という短い期間ではあったが、本務校連携先であり、前カナダ最高裁長官や現最高裁判事を輩出しているアルバータ大学ロースクールにて、DeanであるBarbara Billingsley教授や同大学憲法研究センター長であるRichard Mailey博士との面談の機会を得ることができた。さらに、アルバータ大学ロースクール関係者等による研究会に参加することができ、アルバータ州における移民政策の実情等について窺い知る機会も得た。言うまでもなく、移民は宗教的少数者であることが多い。多文化国家・移民国家の成功例とされるカナダでも、移民の受入について少なくない課題を抱えていることが分かった。 コロナ禍による停滞はあったものの、カナダ訪問を実現し憲法研究者の国際的人脈を広げることができたのは、今後の研究につなげていく布石としても意義深いと考えている。
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