研究課題/領域番号 |
20K01272
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
土井 真一 京都大学, 法学研究科, 教授 (70243003)
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研究分担者 |
岸野 薫 香川大学, 法学部, 准教授 (70432408)
伊藤 健 京都大学, 法学研究科, 特定助教 (40849220)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 違憲審査基準論 / 憲法訴訟論 / 論証責任・論証度 / 立法事実 |
研究実績の概要 |
令和3年8月に全体会合を開催し、近時の違憲審査基準に関する研究状況について情報交換を行い、問題意識の共有と今後の研究計画について検討を行った。併せて、研究会を開催し、伊藤健が、主にアメリカ最高裁判例を素材として「合理性の基準と合憲性推定」と題する研究報告を行った。報告後、同志社大学の松本哲治教授及び御幸聖樹准教授からコメントをもらい、それを踏まえて、合理性の基準における審査の観点や論証責任の在り方について議論を行った。それを通じて、従来、合理性の基準とされてきたものの中に、2種類の基準が含まれており、それを区別して明確に定式化するとともに、その妥当する領域を確定していく必要性が認識された。 土井真一は、研究代表者として、研究全体を統括するとともに、Richard H. Fallon, Jr.による違憲審査基準の位置づけに関する研究を着実に進めている。また、これに加えて、違憲審査基準の設定や憲法判断の方法について多くの課題を抱える付随的及び間接的制約に関する問題の検討に着手した。 岸野薫は、アメリカ合衆国における違憲審査基準論の淵源を明らかにするために必要な文献資料のうち、国内で入手可能なものの収集をほぼ終えて、その分析に着手している。また、これまで行ってきた研究を踏まえて、違憲審査基準論における論証方法を解明するために、立法事実に関する問題についても併せて考察を行った。 伊藤は、上記研究会における報告を基礎に論文をまとめ、これまで公表してきた違憲審査基準に関する論文と併せて、論文集『違憲審査基準論の構造分析』(成文堂、2021年)を公刊した。違憲審査基準論について体系的な理論構築を目指すもので、高い評価を得ている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究全体について、土井の統括の下、各研究者が、研究課題及び研究の基本的視座について共有した上で、それぞれが分担するテーマを確定し、その研究を着実に進めている。 土井は、Fallonによる違憲審査基準の位置づけに関する文献の読解を進め、違憲審査基準論が裁判所と議会などの政治部門との間の役割分担に関する側面を強く有していることから、憲法解釈の多元性を可能にする理論の構築と、違憲審査基準論の体系的位置づけについて検討を進めている。また、併せて検討を始めた付随的及び間接的制約に対する違憲審査基準の問題については、令和3年度中に成果を公表する予定で取り組んでいる。 岸野は、アメリカ合衆国における違憲審査基準論の淵源について、歴史的資料を駆使した検討を着実に進めている。また、違憲審査基準を論証責任・論証度の側面からとらえる場合、立法事実に関する問題を検討することが不可欠であることから、これまでの研究実績と架橋する成果を公表した。 伊藤は、これまでに蓄積した違憲審査基準論に関する研究と、合理性の基準と合憲性の推定に関する研究をまとめて、その集大成を上記論文集『違憲審査基準論の構造分析』として公表した。 このように国内における各研究者の研究は確実に進んでいるが、コロナウイルスの感染拡大のために、当初予定していたアメリカ合衆国を訪問して実施する文献調査及び研究者等へのインタビューの実施を断念せざるを得なかった。したがって、現在までの進捗状況を、「おおむね順調に進展している」と評価した。
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今後の研究の推進方策 |
令和3年度も、土井の統括の下、研究の基本的視座及び研究の進捗状況について共有しつつ、各研究者の独自性を活かして、各テーマについて研究を進めていく予定である。まず、令和3年度は、遠隔会議システムを活用して、2回の全体会・研究会を開催する。第1回の全体会・研究会は、8月~9月に開催し、研究の進捗状況について調整を行うとともに、違憲審査基準論等を専門とするゲストスピーカーを招いて議論を行う。また、12月~1月に第2回全体会・研究会を開催し、土井又は岸野が研究成果について報告して、令和4年度に向けてさらに研究を深める予定である。 次に各研究者の個別の研究計画について、まず土井は、付随的又は間接的制約の概念の明確化、各制約に対する違憲審査基準と憲法判断の方法について検討を行い、その成果を公表する予定である。さらに、Fallon研究を進め、救済法に関する検討と関連づけて、憲法解釈の多元性を可能にする理論の検討を深めるように努める。 岸野は、司法の自己抑制の先駆者であるJames Thayerの違憲審査基準論について本格的な研究に取り組むとともに、19世紀末から20世紀初頭におけるアメリカ最高裁判所の判例の動向についても調査を行う。 伊藤は、まず「論証責任」について、近時の民事訴訟法学における規範的要件の証明責任に関する議論を踏まえて、憲法訴訟における「論証責任」の議論構造を検討する。次に、「論証度」について、審査基準ごとに段階化する必要性及びその理論的根拠を検討する。 なお、令和3年度に、岸野及び伊藤により、アメリカ合衆国における文献調査及び研究者等へのインタビューの実施を予定している。コロナウイルスの感染状況を踏まえて、実施時期を調整し、場合によっては、他の代替手段による実施の可能性について検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由) コロナウイルスの感染拡大のため、アメリカ合衆国における文献調査及び研究者等へのインタビューが実施できず、また国内の移動にも制限が課されたため、他大学の研究者等との対面における意見交換の機会を設けることが困難であったことから、旅費を中心に次年度使用額が生じた。 (使用計画) 旅費については、コロナウイルスの感染状況を踏まえて、アメリカ合衆国における文献調査及び研究者等へのインタビューの実施を行うことができるように検討する。もし実施が困難である場合には、代替手段による調査等の実施、あるいは令和4年度への延期などを含めて、早い段階で対応策を検討する。なお、その他の経費については、予定通り執行する。
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