研究課題/領域番号 |
20K01273
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
高井 裕之 大阪大学, 法学研究科, 教授 (80216605)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 憲法 / アメリカ / 保守主義 / 原意主義 / 文理解釈 / 司法消極主義 / 裁判官人事 / 連邦制 |
研究実績の概要 |
下記のとおり、コロナ禍のため、令和2年度においては本研究の助成金による研究成果はほとんど出すことができなかった。しかしながら、私(本研究代表者)の研究成果としては、髙井裕之(単著)「アメリカ憲法における情報プライバシー権 ―近時の保守派の議論を中心に―」同志社法学72巻4号879~900頁(2020年)および髙井裕之(単著)「アメリカにおける専占法理の近年の動向 ――連邦最高裁判決の一分析――」立命館法学2020年5・6 号(393・394号)459~480頁(2021年)を公表し、これらは本科研費助成金を執行する前に執筆したものであるために本研究の成果とは言いにくいが、実質的には本研究の内容に即した研究である。 本研究の実施計画に3本柱を記載したが、これら2本の論文は、第2の柱、すなわち連邦最高裁における保守派裁判官の見解を丹念に分析することを試みたものである。前者は、アメリカでは憲法上のプライバシー権のひとつの根拠として「実体的デュー・プロセス」がしばしば主張されるところ、「デュー・プロセス(適正手続)」という文言の規定から手続ならぬ実体的な権利を導き出すことに対してきわめて批判的な保守派の裁判官がどのように憲法上のプライバシー権を捉えているかを分析したものである。後者は、連邦法と州法との衝突があるときには連邦法が優先するという「専占」の法理に関する最近の判例を分析する中で、保守派裁判官の理論にも注意を払い、保守派裁判官の好むテクスチュアリズム(法文主義、文言主義=法令の意味を法文に忠実に解釈し、議会における討論など法文外の考慮要素を極力排除する手法)など、その内在的論理構造を把握することを目指したものである。 これらの研究によって、令和3年度以降、本科研費助成金研究を実施するための基盤を固めたといえる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
令和2年度における本研究の進捗状況は順調ではなかった。いうまでもなく新型コロナウイルス感染症蔓延のため、本研究における重要な課題として予定していたアメリカにおける実地調査ができなくなったことが大きいが、これに加えて国内における調査、さらには勤務校における研究にも事実上制約がかかったためである。のみならず、勤務校における教育活動についてオンライン授業の活用など多大の時間を要する業務が発生したため十分な研究時間を取れなかったという事情もある。このほか、本研究の助成金による洋書の発注に関しても、その納入が若干遅れるという事態も発生した。このため、本研究助成金の最初の執行が年度末となり、本研究助成を受けた研究成果は年度内には完成していない。とはいえ、上記のとおり自分の研究としては一定の成果があり、これを本科研費研究に接続して成果を挙げる見込みは十分にある。
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今後の研究の推進方策 |
令和3年度は、ようやく研究用の図書もそろい始め、またコロナ禍における研究・教育体制にも慣れてきたので、本研究課題に本格的に取り組む。まず、研究の3本柱の第2(保守派裁判官の見解分析)は上記のとおり一定の下地を確立したので、引き続き分析対象を広げて継続していく。その際、一般的には最も保守的な立場を取ることの多いトーマス判事のラディカルな原意主義に特に着目しつつ、トランプ大統領によって近時任命された3裁判官の見解にも留意しながら、連邦最高裁の全体動向を把握することも試みる。下記のとおり修正第1条(言論の自由、信教の自由、政教分離)に関する判例が重要であるが、必要に応じて、他の問題、例えば武器保有携帯権に関わる修正第2条、逮捕・捜索・押収の制約に関わる修正第4条、修正第5・第6・第8条における刑事事件の被疑者・被告人・受刑者の権利に関する判例なども分析対象とする。 次に、研究の第1の柱である裁判官任命の実態の調査と分析については、2020年秋に新たにバレット判事が連邦最高裁に任命されるという出来事があり、これについては同時進行的に資料収集したので、今後その分析に注力したい。もとより、ここに至るまでにさまざまな政治勢力による運動や戦略があったはずなので、そのあたりに切り込むことも試みる。 そして、第3の柱である修正第1条に関する判例の総合的分析に傾注する。言論の自由や信教の自由を根拠に保守派裁判官がリベラル派裁判官の反対を押し切ってリベラル派の支持する政策・法令に違憲判断を下す事案は、最近もしばしば見られる(例えば、感染症対策として宗教施設での集会を制限する政策に対する違憲判断など)。 なお、当初予定していたアメリカ合衆国に出張しての現地調査が難しいときは、オンラインによる面談などの方法によることも検討したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和2年度における本研究は、新型コロナウイルス感染症蔓延により、本研究における大きな支出項目であるアメリカにおける実地調査ができなくなったため、多額の未執行が生じた。また、教育活動についてオンライン授業の活用など多大の時間を要する業務が発生したため、十分に研究計画を具体化する時間を取れず、図書の発注も遅れ、物品費の執行が少額にとどまったという事情もある。令和3年度には、研究の遅れを取り戻すべく、アメリカ出張など旅費執行の機会を探るとともに、早期に図書を発注するなど物品費の執行にも努めたい。
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