研究課題/領域番号 |
20K01278
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
渡辺 徹也 早稲田大学, 法学学術院, 教授 (10273393)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 法人税法の変遷 / 法人課税の課題 / デジタル・プラットフォーム / 企業会計・会社法と租税法 / 執行コスト・事務負担 / 政策・優遇税制 / ギグ・ワーカー / 副業 |
研究実績の概要 |
2022年度は租税法に関する中心的な学会の1つである租税法学会において、「法人課税の現在地とその課題」と題する研究報告の機会を得た。本年度は、研究期間のちょうど中間の年に当たる。その意味でも、やや広い視点からこれまでの研究成果を見直すよい機会となった。 具体的には、今世紀に入ったあたりからの企業に関係する課税ルールの変遷をみていくことで、現行税制を検証するとともに、今後の課題等について考察した。その過程を通じて、企業のグループ化を意識した税制が登場したこと、デジタル化を始めとした社会の変化に税制として対応しようとしてきたという新しい側面に気づかされた。その一方で、会社法や企業会計と法人税法との関係、事務負担、執行コスト増大への懸念など、以前からの問題ではあるが、それらが有する現代的な側面の解決を目指した法改正があることも目を引いた。加えて、巨大デジタル・プラットフォーム企業の出現が招いた課税上の課題と、当該プラットフォーム企業を様々な局面で課税に関係させることで問題解決を見いだせる可能性を示すとともに、取引等に関する情報の持つ意味の重要性について確認できたように思う。 学会報告以外では、プラットフォームを利用した副業に関して検討した。インターネットを使った個人の取引については申告漏れの問題がある。他方で、赤字の副業の場合、事業所得として申告することで他の所得と通算するケースが多発している。前者は、主として申告をしない(無申告)という問題であるが、後者は、適正でない申告が行われているという問題である。前者については、令和元年度改正で新設された国税通則法74条の7の2について、後者については、令和4年に改正された所得税基本通達35-2について主として検討を行った。また、デジタル社会の到来により、給与所得のあり方についても再考をすべきときにきていることもわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上記の通り学会報告を通じて、これまでの研究の進捗についても見直すことができ、また研究成果についても整理することができた。少なくとも現段階では特に大きな問題は起こっていないといえる。
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今後の研究の推進方策 |
OECD/G20の包摂的枠組における第1の柱、第2の柱に関する合意内容については、条約締結および国内法の整備など実行の段階に移っているが、その進捗は必ずしも順調とはいえず、とりわけ第1の柱については大幅に遅れているだけでなく、実現が危ぶまれる状況である。したがって、今後は、第1の柱が実現しなかった場合の各国の動きを視野に入れる必要がある。この点に関してすぐに思いつくのは、一方的措置としてのデジタルサービス税(DST)の復活あるいは継続である。DSTの理論的根拠については、既にいくらかの検討を行ってきたが、今後は包摂的枠組合意後の各国の動き(さらには国連の動き)に注意しつつ検討を行う必要がある。とくにコロナ禍において多くの財政出動を余儀なくされた国々において、それなりの税収が見込めるDSTを(包摂的枠組合意に基づいて)手放すことができるのかが問われる。 企業会計との関係も無視できない。そもそも税と会計の関係は伝統的な論点の1つであるが、第1の柱および第2の柱において財務会計が重視されている点に加え、国内法においても法人税法22条の2が創設されたことからも、この論点を扱う意義が現代化してきている。今後は、収益認識会計基準など収益側だけでなく、費用側における会計と税の関係も含めて検証の必要性が生じてくるだろう。 インターネットを使った個人の取引に関する申告漏れ状況は、令和に入ってからより悪化している 。適正な申告をさせるためには、プラットフォーム企業を上手く関与させることができるかがキーポイントだと思われる。これに関してプラットフォーム企業に対する源泉徴収義務の導入が考えられる。源泉徴収制度には反対論が多いかもしれないが、少なくとも、一定の情報提供義務だけでも課すことができれば、源泉徴収義務がなくても、納税者に対する申告のプレッシャーにはなる。今後はこれら施策の導入についてさらに検討を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍のため海外出張および国内出張が極端に制限されたため、交付金のうち執行ができない部分が出てきた。本年5月より、新型コロナの分類が「5類」に変わるため、上記の問題の多くは解決されると思われる。したがって、国内および海外への出張を計画通り進めて行きたい。 また、近年の物価上昇の煽りを受けて、外国語文献の価格が高騰している。この傾向はデータベースに関して顕著である。したがって、当初計画で購入を予定していた外書等について今後は予算が足らなくなる可能性があるが、そうなった場合は、当該次年度使用額で充当することを視野に入れている。
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