研究課題/領域番号 |
20K01279
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研究機関 | 京都産業大学 |
研究代表者 |
中山 茂樹 京都産業大学, 法学部, 教授 (00320250)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 自己決定 / ACP / プロフェッション / 倫理 |
研究実績の概要 |
本人の自己決定能力が十分でない場合の医療的措置に関する決定と「患者の自己決定権」との関係に関する具体的場面として、いわゆる終末期医療の場面を想定し、とくに厚生労働省が策定した「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」に示されたようなACP(アドバンス・ケア・プランニング)のプロセスについて、憲法学の観点から要旨次のように分析した。 ・終末期医療に関する法政策について、多義的な「自己決定権」から必ずしも具体的な法的帰結が導き出せるわけではない。また、法的強制のみによって積極的に望ましい医療等のあり方を実現することはできない。倫理的ないしプロフェッション自律的な規範がよりよい医療に向けて果たす役割は大きく、法的規範との役割分担が期待される。 ・ACPによる本人の価値観の共有は、家族等の信頼できる者を含めてなされる。厚労省GLは、本人の意思の確認ができない場合には、「家族等が本人の意思を推定できる場合には、その推定意思を尊重し、本人にとっての最善の方針をとることを基本とする」とする。家族等による推定意思は重要な要素だが、そのまま従うことが常に本人にとっての最善となるとは限らないだろう。 ・手続的ガイドラインの整備は、プロフェッションが自律的によく考えることを求める趣旨だろうが、マニュアル志向を招く危険も内包する。医療・介護の意義に関する実体論も必要であり、憲法的原則として個人の自律性の尊重とともに生存保障にも留意すべきである。 ・社会の原理としては、個人は誰でも依存的になりうるものだし、いつでも生きる価値がある。ACPによって意思表明を推進する国家の政策や、その具体的実践などが、かえって社会のマクロな視点から価値がないと位置付けられた人々などが「自己決定」により死を選択するように誘導するものになっていないか、点検が必要になろう。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
新型コロナウイルス感染症の拡大防止等に対応するためのオンライン授業の準備などの教育等の業務が膨大なものにのぼり、十分な研究時間がとれなかった。そのため想定よりも研究が進んでおらず、小さな進展にとどまった。
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今後の研究の推進方策 |
オンライン授業の準備なども一定の蓄積をみて慣れてきたため、教育等の業務と研究活動とのバランスを回復し、本研究課題を順調に遂行できるよう立て直したい。また、新型コロナウイルス感染症対応や、NIPT(新型出生前検査)のガバナンスへの公権力の関与など、医療に関する新たな政策課題が生じているところ、医療における親密な関係性の意義(と限界)の探究という本研究課題の観点からもアプローチをこころみたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症対策のため学会・研究会等の現地開催がなくなり、審議会の傍聴等のための出張も避けたため、旅費を使用することがなかった。次年度に旅費使用の機会があるかどうかは感染拡大等の社会状況に依存するためわからないが、旅費使用の可能性にかかる状況を観測しつつ、研究に必要な文献(書籍等)や遠隔での研究会参加に必要な機材の購入等を含め、計画的に使用していきたい。
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