研究課題/領域番号 |
20K01280
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
北村 和生 立命館大学, 法務研究科, 教授 (00268129)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 公法学 / 行政法学 / フランス法 / 国家賠償法 |
研究実績の概要 |
本研究は、犯罪やテロ防止といった領域での、国家賠償責任と被害者救済制度について、フランス行政判例との比較という手法によって研究するものである。 本研究の研究第1年目においては、主として、テロ防止権限の不作為責任に関するフランス行政判例の研究を中心に行った。このような研究により、以下のような点が明らかとなった。 まず、フランスにおいては、1990年代以前から、空港爆破や要人の暗殺といったテロ防止権限の不作為責任に関する行政判例が見られ、初期は責任要件として重大なフォートが要求されたが、次第に責任要件は緩和され、重大なフォートによる責任から単純なフォートを要件とする責任に移行する傾向が見られた。このような傾向は、行政判例全体の重大なフォートによる責任の縮小という傾向と一致していた。 ところが、南フランスでのテロに関する2018年7月18日のコンセイユデタ判決は、テロ防止権限の不作為責任において、重大なフォートが要件となるとの原審判決を支持する判示を行い、事案にやや違いはあるものの、これまでの判例の傾向とは異なる判断を行った。このようなコンセイユデタの判決に関しては、責任要件を緩和してきた判例の傾向を根拠として、批判的に分析する学説が少なからず見られる。しかし、上記の判決の立場を積極的に捉える立場も見られる。後者の立場は、現代型のテロ防止の法的・技術的困難さ、テロ防止活動における個人の自由の尊重(厳格なテロ対策を指向することは自由権を侵害する恐れがある)、また、特別な救済制度によるテロ被害者の迅速な救済との均衡といった諸要素を、重大なフォートを要件とすることによって、総合的に評価することができるとしている。最近のフランスの行政判例には、後者の立場を採用する下級審判決も見られ、少なくともテロ防止期限の不作為責任に関しては、判例上、後者の立場がとられていると考えることができるであろう。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、犯罪やテロ防止といった領域での、国家賠償責任と被害者救済制度について、フランス行政判例との比較という手法によって研究するものであるが、研究第1年目においては、テロ防止権限の不作為責任に関するフランス行政判例の研究を行うことを計画していたが、上記の通り、フランス行政判例の整理分析については順調に研究を進めることができた。これらのフランス行政判例との比較法研究については、既に、「フランスにおけるテロ防止権限の不作為と行政賠償責任ーー2018年のコンセイユ・デタ判決を中心にーー」とのタイトルで、研究成果を論文としてまとめることができており、2021年度5月の刊行が予定されている(『法と政治』72巻1号)。 また、今後の研究計画については、以下に示すとおりであるが、既に文献や判例の整理等の作業には開始しており、少なくとも現段階では概ね順調に推移していると判断することができる。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の第1の目的は、フランス行政判例との比較研究を通じて犯罪やテロ防止に関する不作為責任における法理を明らかにすることであり、第2の目的は、やはり、比較法研究を通じて、犯罪やテロ被害の被害救済のモデルを明らかにすることである。上記のように本研究1年目において、フランス行政判例との比較研究は計画通り進めることができたため、今後の本研究の推進方策については以下のように予定している。 第1に、フランス行政判例との比較研究を継続して行う。既に一定の整理を終えたとはいえ、新たな判例が下され、あるいは判例の変更や新たな解決方法が採用される可能性もあるため、このような継続研究は不可欠である。 第2に、テロ防止の不作為責任は、いかなる法的構成を採用しても容易に認められるものではないのは、フランスにおいても、また、我が国においても同じである。したがって、被害者救済の観点からは、国家賠償責任以外の被害者救済制度についても合わせて考えておく必要がある。フランスにおいては、現在、「テロ及び他の犯罪被害の被害者補償基金(FGTI))」(1980年代に創設)が設けられており、一定の救済が行われているが、2015年以降のテロの増加により、給付が増加し、実体的にも手続的にも改正が必要との指摘が見られる。また、実際に法改正も行われている。これらの法改正を含めて、研究2年目においては、フランスにおけるテロ等の被害者救済制度についての、整理分析を行うものとする。 第3に、本研究においては、犯罪やテロ防止権限の不作為責任に関する我が国の国家賠償に関する研究も予定されている。研究計画上は、研究3年目での整理を予定しているが、研究2年目から、我が国の国家賠償責任との比較研究につき、判例の整理等を継続して行い、準備作業とするものとする。
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