研究課題/領域番号 |
20K01280
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
北村 和生 立命館大学, 法務研究科, 教授 (00268129)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 公法学 / 行政法学 / フランス法 / 国家賠償法 |
研究実績の概要 |
本研究は、犯罪やテロ防止といった領域での、国家賠償責任と被害者救済制度について、フランス行政判例との比較という手法によって研究するものである。 本研究の研究第2年目においては、以下の点につき研究を行った。 まず、第1年度に引き続き、フランスにおける行政判例の研究を行った。第1年度においては、テロ防止権限の不作為に関する2018年7月18日のコンセイユデタ判決を中心に研究を行ったが、第2年度においては、一定の犯罪行為の防止に関するフランス行政判例の研究を行った。具体的には、詐欺的な行為等による危険な医薬品の製造販売に対して、規制権限が行使されず生じた損害に関する行政賠償責任の判例である。これらの判例は、フランスにおいても高い関心が持たれている分野であるが、テロ防止権限の不作為に関する前掲2018年7月18日判例とは異なり、重大なフォートによる責任ではなく単純なフォートが要件とされている。このような違いが生じたのは、規制権限の行使の目的と被規制者の人権保障の必要性の違いによるものであることを明らかにすることができた。これらの判例を整理し、論文にまとめ、立命館法学401号への掲載を予定している(2022年6月刊行予定)。 次に、個別立法による救済制度についてであるが、第1年度に引き続き、テロ被害に関する「テロ及び他の犯罪被害の被害者補償基金(FGTI)」についての制度改正について研究を行った。また、FGTI以外にも様々な基金による救済制度がフランス法の特徴の一つであるが、FGTIとの比較のため、医療分野での救済に関する救済基金の一種である(ONIAM)についても研究を行った。さらに、わが国の国家賠償に関する研究につき、犯罪の防止権限の不作為に関する行政判例の整理・分析を引き続き行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、犯罪やテロ防止といった領域での、国家賠償責任と被害者救済制度について、フランス行政判例との比較という手法によって研究するものであるが、研究第1年目においては、テロ防止権限の不作為責任に関するフランス行政判例の研究を行い、第2年目においては、一定の犯罪の防止権限に関する行政判例の研究を行うことができた。上記のとおり、フランス行政判例の整理分析については順調に研究を進めることができており、これらのフランス行政判例との比較法研究については、既に、「フランスにおける薬害と行政賠償責任ーー最近の行政裁判所判例についてーー」とのタイトルで、研究成果を論文としてまとめており、2022年度6月の刊行が予定されている(『立命館法学』401号)。 また、今後の研究計画については、以下に示すとおりであるが、既に文献や判例の整理等の作業は進捗しており、少なくとも現段階ではおおむね順調に推移していると判断することができる。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の目的は、フランス行政判例との比較研究を通じて犯罪やテロ防止に関する不作為責任における法理を明らかにすることである。 上記のように本研究1年目及び2年目において、フランス行政判例との比較研究は、計画通り進めることができ、論文として整理することができた。今後の本研究の推進方策については以下のように予定している。 第1に、既に論文として整理を行ったが、フランス行政判例との比較研究を継続して行うこととする。というのも、新たな判例が下され、あるいは判例の変更や新たな解決方法が採用される可能性もあるため、このような継続研究は不可欠であるからである。また、下記にも触れるように、とりわけ犯罪の防止権限については、刑法上の犯罪に限定されず、やや広く捉えることができるため、関連するフランスの行政判例の整理は、比較法研究という本研究の手法からは必要である。 第2に、犯罪やテロ防止権限の不作為責任に関する我が国の国家賠償に関する研究を行う。既に、研究第1年目及び第2年目においても、継続して我が国の国家賠償法に関する研究を行っているが、2022年度は研究最終年度に該当することもあり、主として、我が国の国家賠償責任の判例の整理や分析を行うこととする。わが国においてはテロ防止権限に関する判例発下級審まで見てもそれほど多くはないため、刑法上の犯罪だけではなく、個別行政法規上、刑事罰が定められている一定の行為に関する行政の権限不作為に関する裁判例を、整理や分析の対象とすることを予定している。これらの作業に基づいて、研究のまとめを行うこととする。
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