研究課題/領域番号 |
20K01281
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
植松 健一 立命館大学, 法学部, 教授 (90359878)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ドイツ連邦議会の議事手続 / 政党分極化 / 国務大臣の出席義務 / 議員・議院の質問権 / コロナ危機と議会 / ヴァーチャル議会の可能性と限界 / 議決定足数の憲法上の意義 |
研究実績の概要 |
本研究は、日本を含むこんにちの多くの議会制民主政の国でみられる「政党の多極化」現象を踏まえながら、「実効的な議会内野党」を憲法規範論的に定位し、議会運用および議会法解釈上の指針を獲得することを目的とするものである。 2020年度は、ドイツの議会運用のうち2つの事象に注目することで、上記目的の手がかりを探った。1つ目の課題は、議会の口頭質問制度と大臣の議会出席義務の憲法規範的連関の解明である。そのために、近時のドイツ連邦議会における口頭質問改革の議論動向を軸としながら、ドイツ議会制における質問制度およびこれと対になる国務大臣の議会への出席義務についての制度沿革にも目を向けつつ、その憲法上の論点と課題を考察した。またそこから、日本国憲法63条の解釈・運用に関する憲法論上の示唆も獲得することができた。この成果は後掲の論稿(「議会の口頭質問と閣僚の出席義務)として公表した。 2つ目の課題は、議会の定足数に関わる問題である。ここでもドイツの連邦議会の近時の動態を素材とした。ドイツでは従来、議会内会派間の合意の下で本会議出席を議事規則の定める議決定数である過半数を大きく下回る出席で運用されていたが、AfDの議会参入によりこの合意に基づく運用に動揺が生じ、結果として定足数が法的問題が生じている。また、他方でコロナ禍の下で講じられた議会の出席制限の措置が、議会の定足数とは何かを問う契機となっている(また、その先にはオンライン議会の憲法上の意義と限界の問題が存する)。これらの点をドイツの実務・判例・理論を参考に検討した。この暫定的な成果を後掲の論稿(「ドイツ連邦議会の定足数と「出席」)として公表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の計画どおり、本課題の目的に適うかたちで、ドイツ連邦議会の運用上のこんにち的な事象を掘り下げて検討することができた。とりわけ、議事・議決定足数の問題については、当初想定していたAfD(ドイツのための選択肢)による議事妨害的な行動による同様という観点のみならず、2020年の新型コロナ感染拡大を背景に「パンデミック下の議会」、さらには恒常的な「オンライン議会」といった問題までが検討の射程に入ってくることになった。後二者は検討過程での副次的な産物であり、また、いずれもなお萌芽的な問題把握にとどまっているが、日本を含む各国が今後、取り組んでいくべき課題であり、その端緒的な検討ができた意義は大きい。 また、年間に大学紀要に2本の論稿を公表できたことも、大きな成果といえる。
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今後の研究の推進方策 |
現在、ドイツ連邦議会における議員懲罰をめぐる法状況と連邦憲法裁判所の判例の検討に取り組み始めている。これも背景には、上記の議決定数の問題などと同様に、近時のドイツの政党分極化の問題が背景に控えている。これを10月頃までをめどに1つの整理を行いたい。 その上で、これまでの各論的考察も踏まえながら、本研究の核心ともいえる「実効的な議会内野党」の憲法規範論の定位に向けた理論的考察に入る。まずはドイツ連邦議会第19立法期(2012~2017)の「巨大連立政権」の下での野党会派の動態と、その下での憲法学説をあらためて検討する。さしあたりのとりかかりとして、A.Ingold,Die Recht der Oppositionen,2015.の精読を行い、歴史的沿革と現在の問題の所在を洗い出す。
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