研究実施計画の最終年度の2022年度は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の地球規模の蔓延状況に応じた研究環境の劇的な変動からの回復が遅きに失してしまい、初年度の2020年度や前年度の2021年度に引き続き、申請時より計画していた海外渡航による現地調査の実施を見送らざるを得なかった。研究実施計画の重要な部分について、やむなく最終年度も既知の現地研究者などとの遠隔通信による情報収集や意見交換に大きく頼る代替方法を駆使することになったが、重大な遅滞をともないながらも、オンライン取材などのほか、文献や資料を蒐集して分析した成果の一部は、論文(単著)「投票を集計される権利」立命館法学405・406号(2022年5・6号)156-177頁(2023年3月)に盛り込んだ。 この小稿は、研究実施計画の初年度末の論文(単著)「棄権の自由」立命館法学393・394号(2020年5・6号)278-298頁(2021年3月)と前年度末の論文(単著)「暗意としての自由」立命館法学399・400号(2021年5・6号)255-291頁(2022年3月)により自由選挙の原則の骨格や輪郭を独自に描画したのとは少しばかり趣の異なる実践的な方面に展開した研究の成果の一部であり、選挙権行使や選挙運動の自由が剥奪や不当な制約から保護されるばかりでなく無為無益な権利に矮小化されないことまでも保障されるためには、各種の選挙訴訟も含めた広義の選挙制度において必ずしも認知されてこなかった「投票を集計される権利」という概念を導入することが有用であることを説明している。この権利が万全に保障されておらず、いわば空疎な投票を強制される危険があるのは、自由選挙の原則を構成する「棄権の自由」の背面にあるはずの棄権しない自由が否定されているのにほかなりはしないかという新規の問題を提起している。
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