研究課題/領域番号 |
20K01290
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
藤巻 一男 新潟大学, 人文社会科学系, 教授 (20456346)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 消費税 / 事業 / 個人事業者 / 人的役務 / 仕入税額控除 / インボイス制度 / 転嫁 / 人件費 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、消費税率の引上げや軽減税率の導入が小規模事業者の経営に及ぼす影響について、人件費との関係性に着目しながら分析を行い、それらの影響を緩和するための新たな特例措置の在り方を考察することである。 令和3年度では、令和5年10月1日から導入予定の適格請求書等保存方式(以下「インボイス制度」という)が、個人事業者に及ぼす影響を探るため、ネットリサーチによる実態調査(サンプル数:3,086)を実施し、その分析結果や考察の内容を研究成果として発表した。その中で特に着目したのは、本人だけで事業を営んでいる者(以下「一人事業者」という)である。一人事業者はサンプル数全体の63.2%を占め、その中には雇用と請負の中間にある「雇用的自営業者」が存在する。 消費税法上、人的役務の提供者が「個人事業者」に該当するか否かは、当該者自身の納税義務の有無や当該者に対して人的役務の対価を支払う課税事業者の仕入税額控除の可否の判断に影響を与える。しかし、消費税法上、「個人事業者」の意義を具体的に明示した規定はないことから、所得課税の判例において定着している事業所得と給与所得の判断基準に従うべきか、あるいは消費課税固有の「個人事業者」の概念を考えるべきかが問題となる。 そこで、令和4年度では、消費税法上の「事業」の意義を明らかにするための調査・研究を行った。まず、個人による人的役務提供が消費税法上の「事業」に該当するか否かを争点とする多数の裁判例を調査し、それらを人的役務の提供者に対して対価を支払う課税事業者の側から訴えるケースと、人的役務を提供する個人の側から訴えるケースとに区分し、各判決の判断基準を分析した。また、売上げに係る税額の転嫁と仕入税額控除という消費税の基本的仕組みの視点から「事業」の概念を捉え、インボイス制度が「事業」の解釈に及ぼす影響を考察し、その内容を研究成果として発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究では、小規模事業者(中小法人と個人事業者の両方)について、消費税率の引上げや軽減税率の導入による経営への影響について、人件費との関係性に焦点を当てながら、事業関係者や消費者に対してネットリサーチ等による実態調査を実施し、業種別や規模別等の分析をすることを計画していた。 しかし、令和2年度では、新型コロナウイルス感染症の流行が飲食業界等に大きな影響を与えたことにより、小規模事業者を対象とした業種別等の分析を主目的とした実態調査を試みても、生存者バイアスによって消費税率の引上げ等による影響を的確に分析することは困難であると考え、それらを主目的とした実態調査及び分析は実施しなかった。 令和3年度では、令和2年度と同じ理由で小規模事業者の業種別等の分析を主目的とした実態調査は実施しなかったが、上記5.の通り、インボイス制度の影響を受けやすい個人事業者に着目してネットリサーチによる実態調査を実施し、その分析結果や考察の内容を研究成果として発表した。 令和4年度では、令和3年度の研究成果を踏まえ、一人事業者の消費税法上の位置づけを明確にする必要があるとの問題意識から、過去に蓄積された多数の裁判例等に基づく調査・分析に集中的に取り組んだため、ネットリサーチによる実態調査は実施しなかった。 また、令和3年度の実態調査の結果から、個人事業者に絞り込んだ実態調査を引き続き実施する必要があると考えたが、その実施のタイミングは令和4年度ではなく、インボイス制度が導入される令和5年度に実施した方がより的確なデータが得られると考えた。 当初の計画では実態調査を毎年度実施することにしていたが、これまでのところ実態調査の実施は令和3年度だけである。その意味では研究の進捗は遅れているが、アプローチの修正や対象の絞り込みはあったものの、研究成果を着実に上げることができたと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の実施計画では、小規模事業者向けの新たな特例措置の在り方を探究するという目的のために、中小法人と個人事業者の両方を対象として実態調査をすること、また、消費税率の引上げや軽減税率の導入による経営への影響について業種別や規模別等による分析をすることを予定していた。 しかし、上記7.の通り、令和3年度に実施した実態調査の結果を踏まえ、小規模事業者のうち特に個人事業者に着目し、令和5年10月から導入されるインボイス方式による影響を更に調査・分析する必要があると考えた。個人事業者の約6割を占める一人事業者の中には、請負と雇用の中間型の労働形態も存在する。本研究では、特に人件費との関係性に焦点を当てるというアプローチをとっていることから、一人事業者のような労働形態と消費税の仕組みとの関係を解明することは、本研究の目的に即したものと考える。 そこで、令和5年度では、個人事業者を対象とし、インボイス制度導入の前後2回にわたり、ネットリサーチによる実態調査を実施することを予定している。具体的には、インボイス制度が導入される令和5年10月1日を挟んで、1回目を7月、2回目を12月にそれぞれ実施する計画であり、インボイス制度の導入前後における実態の比較分析も行う予定である。 なお、2回目の実態調査は令和5年度の後半に実施することから、全体の研究成果をとりまとめる時間を確保する必要上、当初の研究期間(令和2~5年度)を1年延長することを予定している。
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次年度使用額が生じた理由 |
上記7.の通り、ネットリサーチによる実態調査を実施したのは、令和3年度のみである。 令和5年度の所要見込額(請求額)は約160万円(直接経費)であり、今後、ネットリサーチによる実態調査は少なくとも2回は実施可能である。令和5年度においては、上記8.の通り、インボイス制度の導入開始時期(10月1日)を挟んだ前後2回にわたり、ネットリサーチによる実態調査を実施することを計画している。実態調査1回当たりの費用は50~60万円(2回で100~120万円)である。残額は、データの分析処理の補助業務に対する謝金、研究成果のとりまとめのための文献資料の購入費用に充てるほか、研究期間を1年延長して令和6年度においてインボイス制度導入1年後の実態を把握するための調査費用に充てることを計画している。
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