研究課題/領域番号 |
20K01291
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
長内 祐樹 金沢大学, 法学系, 准教授 (00579617)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | イギリス行政法 / 行政訴訟 |
研究実績の概要 |
本年度は、行政紛争解決システムが大きく変容を遂げる今日のイギリス行政救済法上の司法裁判所の今日的役割及び意義を理解するために、基本的には、イギリス行政救済法制度のアウトラインの正確な把握を行うことに主眼を置いて研究を進めた。今日のイギリスでは、行政紛争の解決機能は、司法裁判所、行政審判所、公的オンブズマン、さらには行政内の苦情処理制度などによって分担されるようになっており、行政紛争の事後救済手続きに関する法制度も、原則として、こうした機能分担を前提としたものとして設計・運用されるようになっていることが見えてきた。たとえば、2007年の行政審判所改革に伴い、従来は司法裁判所たる高等法院が、司法審査と上訴双方の管轄権を有していたものが、今日の高等法院等は、上訴事件に関する管轄権を原則として有さず、司法審査を担当すること自体減少する状況になっている。そしてこのような救済機能の多様化前提とした場合に、紛争をどの機関に振り分けるのかは、国民の権利救済の観点から重要な論点であるところ、その鍵となるのは、①事実事項に関する審査の可能性、及び②司法審査請求が可能となる今日的条件ではないかということが確認できた。 特に、②に関しては、行政審判所の審理を経た後の司法審査請求の基準として、2011年Cart事件最高裁判所判決において、いわゆる第2段階目の上訴に関する基準 (Second Appeal Criteria)の司法審査請求への適用という判例法が提示されたことから、同事件以降の判例を検討した。その結果、Cart事件最高裁判所判決は、行政訴訟の量的拡大と司法的資源の有限性という現実、行政審判所と司法裁判所の適切な役割分担の要請を踏まえ、法の支配の充実を図るための現実的、かつ実効的な司法裁判所の役割とは何かについての一つの解答であったことが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の当初の目的である、司法審査の利用可能条件の検討に関しては、2011年Cart事件最高裁判所判決において、いわゆる第2段階目の上訴に関する基準 (Second Appeal Criteria)の司法審査請求への適用について、現在までの判例の検討を踏まえ、今日までの状況をかなり深くなしえた。また、もう一つの目的である事実事項に関する審査の可能性については、その行政法上の議論の沿革、今日における通説的な見解についての理解を得ることができた。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、①に関して、この区別が行政紛争に関する司法介入の分岐点となる論点であり、ひいては法の支配の拡充という公法上の基本原理に直結するテーマでありながら、これまでのイギリス行政法においては、法律事項と事実事項の区別が相対的なものであり、行政紛争に対する裁判官の介入の意思に左右されるというのが一般的な理解があると考えられていることが把握できたが、そうであるならば、論点の重要性に比して検討は不十分なものであるということにのなろう。そこで、特にこの①事実事項に関する審査の可能性に焦点を当て、同テーマの現状の学問的到達点を精査し、その評価及び自身の知見の獲得に努め、それを一つの観測視点としてイギリス行政救済制度における司法の役割の再定位をする。 また、司法審査の利用条件に関しては、一定の知見を獲得したが、その後の司法制度改革状況は、安定期に入ったとはいいがたく、いまだ流動的なものであるため、そのフォローアップを行い、最新の知識修得に努める。
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次年度使用額が生じた理由 |
イギリスの出版社の書籍に関し、本国での出版事業の遅れから(新型コロナの蔓延によるものと聞いている)、発注した図書が、本年度中に発行されなかったため、その書籍代26,172円が繰り越された。 もっとも、近日中に出版とのことであり、本学の中央図書館には発注していることもあり、出版後速やかに納品をしてもらうことで、繰越金は当該書籍の購入に自動的に充てられる。
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