研究課題/領域番号 |
20K01291
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
長内 祐樹 金沢大学, 法学系, 教授 (00579617)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | イギリス行政法 / 行政訴訟 |
研究実績の概要 |
本年度は、近時、イギリス国会において立法手続きが進んでいる「2021年司法審査及び裁判所法案」の内容の分析を中心に研究に取り組んできた。本法案は、行政訴訟との関係では、取消訴訟における取消判決の効果を制限することを可能とする司法裁量権の明示、及び、カート事件型司法審査に関する司法審査排除条項の二点が特に重要と考えられる。前者は、取消判決において、取消判決の効力の発生期日の延期等を認め、もしくは、取消判決の遡及効の排除ないし限定を認めるものであり、例えば、政府が当該活動を適法とする法改正をするまでの間、取消判決の効力の留保を求めたい、あるいは取消判決の遡及効の制限を求めたいといった場合に利用されることが想定される。また、後者については、第一審審判所から上級審判所への上訴に関する上級審判所の許否判断に対し、原則として高等法院による司法審査を認めないことで、行政事件が高等法院へ係属することを抑制しようとするものであるといえる。こうした本法案の改正の背景には、2019年国政選挙における現政権のマニフェスト中に政治的活動のための司法審査の利用の制限が明示されいていることからも明らかなように、政治的問題の司法化に対する政府与党の嫌悪があるように思われる。本法案に関しては、2022年1月21日の北陸公法判例研究会、同年3月16日のイギリス行政法研究会等で継続的に研究報告を行ったが、その検討を通じ、行政紛争における司法裁判所の役割の退行という現象が生じる可能性、さらには、違法な行政活動の効力を存続させた場合の法の支配の退行に対する懸念といった論点、加えて、傍系攻撃(訴訟)と本法案の相互関係といった実務的論点に関する再検討が必要となることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前年度、イギリスにおける行政紛争の全体的構造、及びその中での司法裁判所の役割についての検討を行い、さらに本年度は、行政訴訟における今後の司法裁判所の根本的あり方に影響を及ぼす「2021年司法審査及び裁判所法案」について、立法過程及び法案の内容の理解、さらに同法案の行政訴訟法に係る論点の整理、学説の動向についての一応の整理ができた。 最終年度に当たる2022年度に研究成果を総体的にまとめるための基礎的な準備を概ね整えることができたと考える。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の最終年度である2022年度は、これまでの研究の成果を踏まえ、イギリスの行政紛争における司法裁判所のかかわり方について、「2021年司法審査及び裁判所法案」の影響を踏まえ、実務的論点、イギリス行政訴訟法上の論点などを中心に、本研究の最終的なとりまとめを行う予定である。
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