研究課題/領域番号 |
20K01292
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研究機関 | 山梨大学 |
研究代表者 |
石塚 迅 山梨大学, 大学院総合研究部, 准教授 (00434233)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 比較憲法 / 中国憲法 / 違憲審査制 / 憲法・法律委員会 / 立憲主義 / 憲政 / 権威主義 / 緊急事態 |
研究実績の概要 |
本研究では、(1)中国における「憲法・法律委員会」への名称変更に至る憲法規定・法制度の変遷、政府・共産党の公式見解、学界の議論について詳細に整理・検討し、(2)同委員会が違憲審査(合憲性審査)機構として機能するための諸課題を考察する。かかる研究を通じて、権威主義憲法体制における違憲審査機構設置の意味、中国憲法と西欧近代立憲主義との矛盾および接合可能性について思索を深めていく。 研究最終年度(3年目)の2022年度になり、ようやくCOVID-19の収束(終息)のきざしがみえてきた。しかしながら、中国はかたくなにゼロコロナ政策を堅持しきわめて厳しい水際対策を採用し続けた(2022年12月にようやくゼロコロナ政策を緩和)。2022年度も、中国・台湾での調査・資料収集、現地研究者との対面での研究学術交流はかなわなかった。 2022年度の研究も、コロナ禍の2020年度、2021年度同様に、所属研究機関での文献・資料の収集・整理・解読が主となった。中国において「憲法・法律委員会」および同委員会が担う合憲性審査に関する研究論文は量的には増えている。「憲法・法律委員会」の業務の法定化も漸進し、毎年公表される備案業務報告からその一部をうかがい知ることができる。 問題は、「憲法・法律委員会」の業務がなお相当程度不透明であること、さらには、「憲法・法律委員会」の起動が必ずしも西欧立憲主義の文脈で把握・理解される憲法保障とは結びつかないことである。とりわけ、後者の点は、中国の憲法体制および合憲性審査制度を評価する上できわめて重要である。小論「中国における緊急事態と憲法・憲法学」(全国憲法研究会編『憲法問題33』日本評論社)では、中国における「緊急事態」の憲法上の位置づけ、および緊急事態法制の現況と課題を順次検討し、立憲主義的な視点から若干の考察を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究の目的は、(1)中国憲法に規定された「憲法・法律委員会」をめぐる制度・学説について詳細に整理・検討し、(2)同委員会が違憲審査(合憲性審査)機構として機能するための諸課題を考察することである。2020年度と2021年度を文献・資料の収集・整理・解読の年に、2022年度を前2年間で得られた知見の総括的分析、研究成果の公表の年にそれぞれあてて、3年間で研究の完成を目指していた。 2022年度もこれまでの研究進捗の遅れを取り戻すことはできなかった。 これまでの研究実施状況報告書でも記した、研究を阻害する二つの要因に大きな変化がみられないためである。一つめの要因は、COVID-19の世界的流行に伴う海外渡航・国内移動の禁止・制限が続いていること、二つめの要因は、中国の研究学術環境の急速な峻厳化、人権をめぐる中国と西欧諸国の対立の先鋭化である。前者は緩和の兆しがみられるものの、後者は、研究者やジャーナリストの拘束が続く等、深刻さのいっそう度合いを増している。 中国・台湾での調査・資料収集、現地研究者との対面での研究学術交流がかなわない中で、2022年度も、中国で発行される雑誌論文の全文データベースであるCNKI(中国知識資源総庫)のコンテンツ別の購入を行い、雑誌論文の収集・整理・解読を続けた。中国での調査・資料収集ができない中での見切り発車ということになるが、それら文献研究を基礎にして、得られた知見の総括的分析、研究成果の公表へと作業の軸足を移しつつある。
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今後の研究の推進方策 |
本研究については、期間延長を申請しその承認を得た。 COVID-19の収束(終息)がなお不透明であり、中国での研究学術交流が冬の時代を迎えている中で、今後の研究の推進方法については、特段の奇策があるわけではない。 中国での調査・資料収集が絶望的であり、中国人研究者との研究学術交流が相当困難になっているという現状を確認した上で、所属研究機関での文献・資料の収集・整理・解読を引き続き推進し、手元にある文献・資料から中国の「憲法・法律委員会」について理解を深め、研究成果の公表へとつなげていく。 台湾・香港への渡航が可能となったため、台湾・香港で調査・資料収集、研究者との研究学術交流を実施し、研究の不足部分を少しでも補いたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由)COVID-19の世界的流行、および中国の研究学術環境の急速な峻厳化のために、当初予定していた中国・台湾への訪問、および国内の出張を中止せざるをえなかったためである。 (使用計画)COVID-19がこのまま収束(終息)へ向かえば、国内・国外への研究出張(文献・資料収集、研究交流)および外国人研究者の日本への招聘に充てられる。現状において、中国での調査は大きな困難を伴うので、台湾・香港での研究調査を考えている。残りは文献・資料の購入、遠隔での通信のための機材の購入等に充てる。
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