本研究における4年間の最終年となる本年度(令和5年度)においては、これまでの研究活動の成果を、論文2件と口頭発表1件という形で公開することができた。 まず論文1件目は、昨年度の日本公法学会における研究報告の内容をもとに執筆した「感染症対策としての経済的助成等」である。同論では災害と共通する社会的なリスクへの対応策としての経済的助成について考察を行った。そこではコロナ禍においてなされた各種の現金給付を伴う経済的助成についての施策を取り上げ、それがいかなる目的で、いかなる法規範あるいは法形式に基づいて具体化されたかについて検討を行った。そして、社会政策上の措置としてなされるそれらの経済的助成策についての機能と限界について探った。これは大規模自然災害への対応においても応用可能な知見といえる。 そして論文2件目は、大規模災害の復旧にかかる「公費」投入の今後のあり方に関する論考である。この論点は、令和6年元日に発生した能登半島地震にともなって、社会的にも注目されるものとなっている。同論文では、被災者生活再建支援法を中心とした、これまでの施策の内容と問題点を明らかにするとともに、私有財産としての給水装置の費用負担のルールに着目して、考察を行なった。そしてこの給水装置にかかる規範、ないし水道法の分野に、まさに本研究がいう「官民交錯領域」が如実に現れていることが明らかにできた。これまでの政府見解では私有財産に公費を投入することは原理的にできないとされてきたが、身近なところに公費投入が許容されてきた例があることを、あらためて示すことができた。 口頭発表は、2件目の論文の内容を中心に、「官民交錯領域」に着目する意義などについて論じた。 以上のような研究実績を発表することにより、本研究の問題意識に対する一定の回答を描き出すとともに、今後の研究の端緒も形成することに成功した。
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