近年、インターネット上における海賊版サイトが、出版業界や映像業界に多大な経済的損失を与えていることが問題になっている。とくにCOVID-19のまん延時には「巣ごもり需要」の存在も指摘されていた。同サイトに対しては、プラットフォーム事業者による種々の対策はとられているところであるが、問題の解決には至っていない。その根本的原因は、こうしたサイトの運営者の特定が困難であるため、侵害者に対する違法コンテンツの削除要請及び損害賠償請求といった法的対処をとることが困難であることがあげられている。 そこで、こうした海賊版サイト対策の最終手段として、同サイトへのアクセスについてインターネット・サーヴィス・プロバイダ(ISP)による遮断措置(ブロッキング)を講じる旨の要請が権利者・出版社団体から寄せられている。政府も2018年の「インターネット上の海賊版サイトに対する緊急対策」において、同施策をISPに要請することを提言していた。ただ、こうした政府の要請には、憲法学者・情報法学者・実務家から、同施策は憲法が保障している表現の自由を侵害する、あるいは、通信の秘密を侵害するものであるとの強い批判も寄せられている。 本研究は、こうした状況をうけ、海賊版サイト対策として仮に法律でISPによるサイトブロッキングを容認するとして、当該法律は憲法上の表現の自由を侵害するものであるか、また、通信の秘密との関係ではどうかを検討したものである。その成果としては、① 海賊版サイトを運営する表現の自由は保障されていないこと、② 同サイトを利用する者にも同サイトを見る自由(知る自由)は保障されていないこと、③ アクセス情報の機械的検知は通信の秘密を侵害しているとまではいえないであろうこと、④ ブロッキングの対象が拡大されるおそれも杞憂であること、⑤ ISPに義務づけることも可能であろうこと、これらを明らかにしている。
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