研究課題/領域番号 |
20K01301
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
遠藤 美奈 早稲田大学, 教育・総合科学学術院, 教授 (40319786)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 関係性 / 生存権 / 存在の保障 / ビルシッツ / ネデルスキー / K・G・ヤング |
研究実績の概要 |
2021年度も出張等は行わず、文献研究とリモートでの学会および研究会参加を中心に課題に取り組んだ。 まず、社会における等しい重要性の承認という間主観的な理念から基本的権利を基礎づけるD. ビルシッツの議論の検討から、J. ネデルスキーの関係的アプローチとの交錯点として生存権の基礎付け論に新しい視角がひらかれた。すべての個人の生を相互に等しい重要性を持つものとする平等命題は、憲法13条の「個人の尊重」に、「自由の保障」と「存在の保障」の二側面をみる憲法学説と親和的である。二側面のうち、とりわけ「存在の保障」は、関係性の構築を支援の本体部分と見る相談支援に憲法的位置づけを与えるものとして重要であるとの認識を得ることができた。また、「存在の保障」は関係性に支えられているとみることができ、福祉給付における品位を傷つける関係性としてのいわゆる「劣等処遇」とは相容れないことへの論証の手がかりを得た。さらに、自覚的な関係的視座からの観察は、権利論ではなく社会国家論として国家による給付を捉える際に、憲法内外の統治諸機関及び市民社会の関係する諸アクターとそれらの相互関係を動態的に捉えるのに有効であるとの知見が得られた。加えて、K. G. ヤングの提示する社会権を権利として構成していく際の市民の役割についても、関係的視点から考察を行い、その積極的位置を確認することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
関係性アプローチの理解を深め、生存権論との接合可能性について手がかりが得られただけでなく、権利論、国家論、統治機構論といった複数の視座において関係的な現象のとらえ方を試みることができた。その成果を論文5本にまとめられたのは、研究代表者としては予想を超えた成果と言える。ただしそれらを束ねてひとまとまりの総体とする準備には未だ至っていないため、おおむね順調な進展とした。コロナ・パンデミックの作り出した社会状況が、より立ち入った先行業績の理解を導き、研究成果と結びついているものと思われる。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度は、文献研究を進めつつ、前年度までの成果をとりまとめる準備を行いたい。前年度までに実施できなかった実務家への聞き取りは、聴取内容を見極めたうえで実施 することを目指す。2021年度に予定している海外研究者との意見交換は、実施を目指しつつも、時期・方法については慎重に検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ・パンデミックの影響で海外出張を実施しなかったために次年度使用額が生じた。2022年度は感染状況を見極めつつ、可能な限り出張を実施したい。
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