研究課題/領域番号 |
20K01304
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
安井 栄二 立命館大学, 法学部, 教授 (00511221)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 繰越欠損金 / 損金算入制限 |
研究実績の概要 |
単年度における繰越欠損金の損金算入制限は、平成23年12月税制改正において、当初当該事業年度の所得金額の80%までを損金算入の上限とする内容で導入された。その後、平成27年度税制改正および平成28年度税制改正において、損金算入の上限が50%にまで引き下げられてきた。 このような税制改正に際して、政府税制調査会で議論が行われている。まず、平成23年12月税制改正に際しては、第11回専門家委員会(平成22年11月8日開催)において、単年度における繰越欠損金の損金算入制限の是非が検討された。その議事録によれば、「厳しくやり過ぎてはいけない」とか「中小企業に対する配慮が必要」といった意見が表明されているものの、上記制限自体を否定する意見はなかった。上記制限は、総会の議決を経て、平成23年度税制改正の大綱に取り込まれた。 次に、平成27年度税制改正に際しては、法人課税ディスカッショングループにおいて、上記制限の拡大の是非が複数回にわたって検討されている。その議事録によれば、上記制限を拡大させるのであれば繰越しの期間制限を伸ばすべきとの意見が多数表明されていた。このような議論を経て、上記制限は単年度の所得金額の50%までとされ、繰越しの期間制限は10年に延長された。このような改正の趣旨について、財務省『平成27年度税制改正の解説』は次のように述べている。「損金の繰越控除……の適用によって課税ベースが大きく浸食され、結果として一部の法人に税負担が偏っている状況にありました。こうした状況を改善することが、法人税改革の本旨に合致し、法人実効税率の引下げと相まって、法人課税を広く負担を分かち合う構造へと改革することにつながるものと考えられました。」 このように、我が国において上記制限は、欠損金の繰越しの期間制限を所与のものとした上で、法人税率引下げの財源として是認されているようである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定通り、平成23年以降の政府税制調査会の議論を検証した。その結果、政府税制調査会では繰越欠損金の損金算入制限を財政上の理由で行うことについて、概ね問題がないと考えられていたことが明らかとなった。この点について、コロナ禍の影響もあって研究会等において報告する機会が得られず、研究者や実務家等と意見交換できなかったことは残念である。しかし、2021年度においてドイツの繰越欠損金制度の研究を行うにあたり、その足がかりとなる検討が行えたことから、本年度は有益な研究年度であったといえる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、繰越欠損金制度のあるべき姿を検討するにあたって、ドイツの繰越欠損金制度を比較対象として研究を行う。特に、ドイツの制度では、欠損金の繰越期間は無期限であるものの、近年の改正によって、単年度の損金算入には制限が設けられている。この研究では、ドイツにおいてそのような改正が行われた理由は何か、そして、繰越期間がいまだに無制限である理由は何か、という点を明らかにしたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍の影響により、学会がすべてオンラインとなったり、資料収集のための出張等ができなくなったため、出張旅費が全くかからなかったことによって次年度使用額が生じた。次年度は、感染状況が落ち着いたところで資料収集のための出張を考えており、出張旅費の使用額がそれなりに及ぶものと思われる。
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