研究課題/領域番号 |
20K01304
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
安井 栄二 立命館大学, 法学部, 教授 (00511221)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 繰越欠損金 / 濫用防止 |
研究実績の概要 |
日独の法人税法には、赤字企業を買収して当該企業が保有する繰越欠損金を利用することを防止する規定がそれぞれ存在する。それによれば、我が国では、ある買収者が赤字企業を買収した上で、法人税法57条の2に規定される「特定事由」に該当した場合にのみ欠損法人の繰越欠損金の控除が否認される。そのため、欠損法人の繰越欠損金の濫用を許してしまうケースが存在するという問題がある。 他方、ドイツでは、買収者が赤字企業の出資持分の過半数を取得した時点で、当該赤字企業の繰越欠損金は原則として消滅することとされている。しかし、それでは赤字企業を救済するための出資に支障を来すこととなる。そのため、ドイツ法人税法上の適用除外規定に該当した場合には、当該企業の繰越欠損金は消滅しないこととなっている。ただし、当該適用除外規定の要件が厳しく、正当な事業目的があるにもかかわらず適用除外が認められないケースが存在するという問題が存在している。 周知のとおり、繰越欠損金の控除は法人の真の所得金額を計算するために認められるものであり、当該欠損金の控除の否認は当該欠損金を濫用するケースに限定されるべきである。ドイツでは、上記適用除外規定に対する批判から、当該規定の適用除外の範囲の適正化に関する議論が継続中である。そのため、今後、これらの議論を参考にすることで、「正当な事業目的がある買収事例」の類型化を検討することが可能となる。それによって、我が国における上記「特定事由」の見直しにもつながるものと思われる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2021年度の研究では、ドイツにおける欠損金の繰越期間が無制限である理由や単年度における繰越欠損金の損金算入の制限が行われるようになった理由について明らかにする予定であった。しかし、コロナ禍の影響および諸事情により、東京への資料収集も満足に出来なくなり、研究がやや遅れている。 ただし、昨年度冒頭の研究計画の変更により、上記研究は2022年度前半期までとすることとしており、2022年度中には目処を付けたいと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き、ドイツの繰越欠損金制度について、研究を行う。特に、ドイツにおける欠損金の繰越期間が無制限である理由を明らかにすることによって、我が国における繰越期間の制限が妥当であるかどうかについて検討したい。 なお、研究の進捗が芳しくない場合には、研究期間を1年間延長することを視野に入れている。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍の影響により、学会がすべてオンラインとなったり、諸事情のために資料収集のための出張等ができなくなったため、出張旅費がほとんどかからなかったことによって次年度使用額が生じた。次年度は、資料収集のための出張を複数回実施することを考えており、出張旅費の使用額がそれなりに及ぶものと思われる。
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