本研究では、国際法上一国の内乱に対する「要請による干渉」がいかなる目的を有しているかを検討した。 一国で発生した内乱に対する外国の軍事介入の問題は19世紀以降国際法上の問題として浮上した。19世紀から20世紀前半にかけての国家実行の検討からは、このような軍事介入は介入国の自己保存や自衛といった安全保障上の利益に基づき正当化されており、内乱が発生している領域国の政府の要請の有無は問題となっていなかったことが明らかになった。武力行使禁止原則が確立した20世紀半ば以降は、同原則により禁止される武力行使に該当しないために領域国政府の同意または要請が要件とされるに至った。したがって、内乱に陥った領域国政府の意思や能力の欠如を根拠とする、個別的自衛権に基づく領域国内への軍隊派遣の近年の事例は、伝統的な内乱への軍事介入の論理が個別的自衛権概念の拡張として顕現したものと捉えることができた。 また事例において要請の存在が主張される場合と同意が主張される場合があることもも明らかになった。この点については、在外自国民保護といった介入国の法的利益の釣言を目的とする場合には領域国政府の同意で十分であるが、対内秩序の維持といった領域国の法的利益の実現を目的とする場合には領域国政府の要請が必要となるのと理論的観点から分析できた。このように、伝統的には「要請による干渉」は(1)介入国の法的利益の実現かまたは(2)領域国の法的実現のいずれかを目的としていた他方で、2013年のマリの内乱へのフランスの軍事介入など近年の事例の検討からは、(3)国際の平和と安全の利益の実現の機能が「要請による干渉」に付与される場合も見られることがわかった。理論的観点からは、国際の平和と安全の利益の実現の機能を帯びる場合には国際の平和と安全のに主要な責任を有する国連安保理の統制が及ぶと分析することができた。
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