研究課題/領域番号 |
20K01313
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
徳永 恵美香 大阪大学, 国際公共政策研究科, 招へい研究員 (50794773)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 被災者の保護 / 被災国 / 同意原則 / 人道支援 / 災害対応 / 防災 / 災害リスク削減 / 国際法学 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、(1)防災と国際的な災害対応をめぐる国際的な動きを中心にして、「国際災害法」という法体系が国際法の一体系として形成されつつある過程を実証的に解明することと、(2)被災者の保護と被災国の同意原則に関する概念、原則、及び規則の内容を明らかにすることである。(1)では、19世紀後半から現在までの「国際災害法」に関する法規範形成の過程を、行為体と成果物の2つに着目しながら分析する。行為体とは、国家、国際機構、地域的国際機構、非政府組織等を指し、成果物はこれらが採択した文書や条約等を指す。(2)では、(1)で検討の対象とした成果物の分析とともに、被災者の保護に関する人権条約の規定の解釈や人権条約機関の実行等の分析を行う。 災害時に被災国が自国の管轄下の被災者を救援することが困難な場合、被災国が国際的な人道支援を受け入れることによって、自国の災害対応能力を補完することは、被災者の生命を守る上できわめて重要な意味を持つ。しかし、被災国が国際的な人道支援の受け入れを恣意的に拒否する場合、国家主権に基づいた被災国の同意原則が障害となって被災者の救援が著しく困難になる。そこで、本研究では、被災者の権利に関する人権条約上の被災国の義務の視点から、被災国の同意原則を乗り越えるための理論的な枠組みの再構築を試みる。 令和2年度には、上記(1)に関する関係資料の収集と文献調査、及び予備的分析とともに、当初令和3年度に予定していた上記(2)の研究の中の被災者の保護に関する概念等の予備的分析を行った。これらの結果、国際環境法上の予防原則の観点から被災者の保護に関する人権条約上の被災国の義務の内容とその適用範囲の拡大を図る実行が国連の人権条約機関や地域的人権条約機関で広く見られるようになっていることと、このような実行が被災国の同意原則の修正において重要な役割を担う可能性を見出すことができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
令和2年度は、新型コロナウイルス流行に対する国内外の移動制限等の措置によって、上記(1)の法規範形成過程の実証的研究に関連した国外での資料収集と、国連関係者や専門家に対するインタビューを実施することが著しく困難となった。そこで、現在の研究環境で実施可能な範囲内で、国内での資料収集と文献調査を実施するとともに、予備的分析を進めた。また、当初令和3年度に予定していた(2)の概念・原則・規則に関する研究の一部を前倒しし、特に被災者の保護に関する概念等の予備的分析も行った。
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今後の研究の推進方策 |
令和3年度には、令和2年度に収集した資料及び今後収集する資料等に基づいて、上記(1)の法規範形成過程の実証的研究の検討・分析を継続する。(1)に関して令和2年度に実施できなかった国外での資料収集と、国連関係者や専門家に対するインタビューに関しては、新型コロナウイルス流行の状況を勘案し、状況が改善し国外渡航が認められる場合には、令和3年度後半にこれらを実施する。状況の改善が難しい場合には、オンラインでのインタビューの実施を行うこととし、現地調査等は令和4年度の前半に延期することとする。 また、上記(2)の概念・原則・規則の内容の解明に関する研究では、資料収集・文献調査を開始するとともに、検討・分析を進める。その際、被災者の保護に関する概念等に関しては、令和2年度に行った予備的分析を踏まえつつ、「経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約」や「市民的及び政治的権利に関する国際規約」をはじめとする主要な人権条約の規定の解釈と条約機関の実行の検討とともに、欧州人権裁判所や米州人権裁判所などの地域的人権条約機関の実行等の分析を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和3年度に使用額が生じたのは、新型コロナウイルス流行に対する国内外の移動制限等の措置を受けて、令和2年度に予定していた(1)の法規範形成過程の実証的研究に関連した国外での資料収集と、国連関係者や専門家に対するインタビューを実施することが著しく困難となり、令和2年度に旅費と計上していた予算を執行することができなかったことが主な理由である。令和2年度に実施することができなかったこれらの現地調査等は、新型コロナウイルス流行の状況を勘案し、状況が改善し国外渡航が認められる場合には、令和3年度後半に実施する。
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