研究課題/領域番号 |
20K01322
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研究機関 | 京都産業大学 |
研究代表者 |
戸田 五郎 京都産業大学, 法学部, 教授 (90207580)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 難民 / 庇護権 / 宗教の自由 |
研究実績の概要 |
応募時に設定した研究計画に沿い、2020年度においては、関連先行研究の収集、検討とともに、難民認定事例と、難民認定に準じる、いわゆる補完的保護事例で、宗教の自由に関連するものの渉猟(国際・国内)に努めた。その一方、計画していた欧州人権裁判所、欧州司法裁判所の訪問調査に関しては、欧州地域での新型コロナウィルス感染拡大のため実施することができなかった。状況はなお流動的ではあるが、可能な限り2021年度において実施したい。 上記訪問調査は実施できなかったが、欧州の2つの関連国際裁判所(欧州司法裁判所と欧州人権裁判所)の関連事例の検討はほぼ終えており、欧州の関連国内判例の収集に入っている。難民条約は難民の要件として「迫害を受けるおそれがあるという十分に理由のある恐怖を有する」ことを規定するが、その認定においては難民認定申請者が主観的に迫害の恐怖を抱いていることに加えて、迫害のおそれの存在を根拠づける客観的な状況の存在が必要とされるところ、とりわけ後者の認定において各国の司法機関が設定する基準は、国連難民高等弁務官事務所の作成にかかる『難民認定基準ハンドブック』に対する態度の如何を含め必ずしも統一的ではない。事例の検討においては、そのことが特に宗教の自由に関連する事案においてどのような影響を及ぼしているのかを念頭に置きつつ、研究計画に記したように、申請者の主張の信憑性の評価基準および、申請者が出身国において行うであろう宗教活動と迫害のおそれとの関係に関する判断を中心として比較検討を行っているところである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
概要で言及したように、2020年度に予定していた欧州での訪問調査が実施できていない。欧州では、欧州連合(EU)の枠組みで共通欧州庇護システム(CEAS)が機能しており、難民としての保護および補完的保護の資格基準、申請手続等に関し共通の標準が確立しつつある。その運用において欧州司法裁判所が先行判決の付与等を通じて重要な役割を果たしている。また、EU全構成国を含む欧州評議会(CE)の加盟国を締約国とする欧州人権条約の実施機関である欧州人権裁判所は、その判例法でノン・ルフールマンの原則を取り入れた同条約の解釈適用を展開し、庇護関連事例において重要な先例を蓄積しつつある。このようにCEASの運用に2つの国際裁判所が実質的に関与している状況において、両裁判所がどのような関係にあり、またあるべきかに関し執筆した論考(「欧州司法裁判所と欧州人権裁判所の並存と相互関係――庇護事例の検討を中心に――」産大法学50巻1・2号87-110頁)を土台として、本研究に係る両裁判所の関係に関し、非公式なそれも含めた聞取調査を行うことを計画しているところであるが、コロナウィルス対策の状況を見てできるだけ早期に実施したい。
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今後の研究の推進方策 |
上記の遅れを除いて本研究は現在のところほぼ計画通りの進捗状況にある。2021年度は関連事例の引き続いての収集と検討を行うとともに、CEASの運用における宗教の自由に関する論考を執筆する予定であり、更に2022年度にかけて、非欧州の主要難民受入国の状況を加え、それに照らして日本の状況を検討する段階へと入って参りたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年度に予定していた欧州訪問調査が実施できなかったため残額が生じた。当該調査を2021年度に行うにあたり、繰り越し分を旅費の一部に充当する予定である。
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