本研究は、日本で労働基準法上の労働者に該当しない非雇用型就業者が増大する中で、非雇用型就業の当事者間に存在する交渉力格差を是正するための集団交渉制度のあり方を、労働法と経済法の両面から、ドイツ・EU法との比較で検討するものである。 最終年度は、2022年9月29日公表の新EUガイドラインに注目し、その内容と、同ガイドラインが加盟国(特にドイツ)の法制度に与える影響を中心に検討した。同ガイドラインは、労働者に類似した立場にある一部の個人事業主について、その者の団体協約がEUのカルテル規制に違反しないことを明確にした。ここで「労働者に類似した立場にある」とされる個人事業主の基準としては、①特定の事業者との間でのみ、または主として特定の事業者のために事業を行っている、②当該企業の労働者と一緒に同様の業務を行っている、③1つのデジタルプラットフォームのために、またはそれを通じて仕事をしている、が挙げられている。 この点ドイツでは、「労働者類似の者」に労働協約締結を認める規定がある(労働協約法12a条)ところ、その要件(主として一人のために活動している場合、または、一人の者から平均して、生業活動から得られる全報酬の原則として半額以上を得ている場合)に該当しない個人事業主についても、EU法との関係では団体交渉・協約締結が認められ得る(競争法違反とならない)ことになる。ドイツの労働組合はEU域内の役務提供取引にも関与しており、ドイツ国内でも「労働者類似の者」の定義に該当しない事業者の団体交渉制度のあり方をめぐる議論が喚起されている。「弱い」事業者の団体交渉制度の要否が、主に対象者の論点を中心に議論されているのは日本と同様であり、上記ガイドラインによる保護対象者やドイツ法の考え方を参考に、日本でも事業者の団交制度の具体的内容(労働者と必ずしも同一である必要はない)の議論を深める必要がある。
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