延長後の2023年度は研究の仕上げとして被用者保険の適用に関する研究を進めると同時に,一定の結論を得ることができた。そこでは一般的に言われているように,被用者保険の適用対象者が労働契約上の地位にかかわららず実体的に判断すべきという指針は当然のことながら,現実にはそれに抗するような働き方の多様化に対応するような規範的検討が必ずしも貫徹されていないことを確認するに止まった。もっとも,この問題は単なる適用問題に還元されるものではなく被用者年金法に横たわるリスクとニードを再度浮き彫りにさせなければならないこと,それらの社会性を担保する民主的決定,自治的要素をいかに制度規範構造に取り込むべきかが課題となることを再認識させるに至った。 本研究期間を通した成果として2冊の編著,31本の論文(論評等を含む)を世に問うことができ,それらも一貫して働き方の多様化が労働関係にどのような影響を与え,それが生存権を基盤とする社会保障法体系にいかなる影響を与え,あるいは与えないべきかを再考させるものであった。 しかしながら本研究には課題も残された。新型コロナウイルス感染症感染拡大は既存の分析枠組みだけでなく分析手法,分析の道具を陳腐化し,新たな時代にいかなる道具を使うべきか早急な検討を要求した。これには地道な研究課題の意識と時代を取り巻く環境の変化に柔軟に対応する能力の必要性を痛感させるものであった。本研究にはまだまだその点が不足していたものといえる。 残された検討課題は当初設定していた問題意識の想定を超えるものであり,社会保障法学における基礎原理に立ち返った検討の必要性を改めて確認するに至った。もっともそれでも本研究は働き方の多様化に対応し得る公的年金に止まらない社会保険法の在り方について新たな視角を得ることができたと考えている。
|