研究課題/領域番号 |
20K01335
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研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
井畑 陽平 長崎大学, 経済学部, 准教授 (80467406)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | データ駆動型経済 / 巨大IT企業 / デジタルプラットフォーム / 連邦反トラスト法 / 競争法 |
研究実績の概要 |
2021年度は、本研究の中間年度に相当し、おおむね年度前半は、米国及び日本における競争法等にかかる解釈論との相対化を図るべく、EU法について、必要な先例の収集と分析に重点を置いて研究を進めた。具体的には、巨大IT企業に関するEU競争法やEU一般データ保護規則(GDPR)にかかる先例を収集し、とりわけ、EU競争法違反とされた先例のうち、消費者利益の保護の兼ね合いでデータの取扱いが問題とされたものを中心に分析した。これらの研究は、取引の公正性概念の外延を探究するという、本研究課題の検討を進める上で、金銭的価値のみならず、表現の自由や民主主義の保護といった諸価値をも競争の観念に取り込もうとする際に検討するべき論点を明らかにするなど、重要な知見がえられた。 年度後半は、引き続き、米国法を考察する上で必要な先例及び二次文献の収集と分析に重点を置いて研究を進めた。とりわけ、米国における反トラスト法の1つであるFTC法5条を根拠として消費者に対する「不公正な行為・慣行」を規制(禁止)している米国での先例を収集し、米国の競争法において競争と取引の公正性とにかかわる先行研究等を踏まえた解釈論を分析し、また、本来は競争を規律するFTC法を根拠として、わが国でいう個人情報保護に近いデータセキュリティの問題に対してFTCが果たしてきた役割を分析した。 なお、本研究の申請時には、2021年度の半ば(8月)に、EUにおける最新の実務及び学説の動向把握のため現地調査を予定していた。こちらについては、引き続き、新型コロナウイルス感染症の世界的な流行を受け、予定されていたOECDが主催する国際シンポジウムがオンラインミーティング方式で実施されるなど、研究環境の大幅な外在的影響を受けたものの、文献研究等に重点を移す等の代替的手段により、本研究に必要な調査活動等を遂行することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の申請書に記載した「研究の目的」に照らして、現在までの進捗状況について、おおむね順調に進展していると自己評価した理由は、以下の通りである。 本研究が対象とする分野では、法規制、実務、そして研究面において、常に新しい動きがあることを考慮すると、検討の対象としていた制度的枠組みが大きく変容したり、あるいは、より重要な検討対象が生まれたりするという事態も想定され、実際に、独占禁止法の解釈に大きな影響を与える公正取引委委員会ガイドラインが2021年度中に、新たに、2つ公表された。このような事態について、当該変容の過程で行われる議論や当該対象に関する外部での議論をも本研究の検討対象に取り込み、その適否を検討した上で独自の分析を進める方針で臨んでいる。さらに、本研究を進めていく過程で、状況の変化によっては、外部の研究者の専門性を活用する等の必要が生じる可能性がある。こういった事態については、随時、必要となる専門性を持つ外部の研究者の協力を(オンラインミーティング などを活用しつつ)仰ぐなど、柔軟に対処できたと考えている。 2021年度末の時点で、所属する研究機関を通じて、判例等の一次資料及び論文・著書等の本研究に関連する二次資料について、最終成果につなげるために必要なものを入手できている。また、CPRCを構成する研究者メンバーとのオンラインミーティングなどを介した討論を通じて(合計で8回実施)、研究を進めるに当たり取り組むべき課題やその対処方法の適正性についても担保できていると考えている。研究成果の一部については、2022年度の冒頭も含め、応分に公表できた。 なお、当初の計画以上に進展していると評価しなかった理由としては、外国における法執行当局者等への実地調査が、新型コロナウイルス感染症の余波もあり、持ち越されている点である。最終年度にも実施すべく、関係者と検討を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の基本的な推進方策とは、研究遂行にあたり、3年間にわたる本来は1つの研究を複数の段階に分け、それによって、単年度ごとに研究成果が出るようにすること、である。すなわち、本研究は、3年間の研究期間を、第一期(2020年度)、第二期(2021年度)、そして第三期(2022年度)に分けて遂行している。 研究期間の各期を通じて、一定の成果が得られた各段階で調査報告という形で、複数の研究会において報告・発表し、さらにその過程で得られた知見をふまえて論文として公表し、それらに対する意見を積極的に求めるというやり方で進めている。こうすることで、そこまでの研究の客観的な位置づけをうるとともに、独善とならないよう十分に努め、次期の研究の方向性の適切さを担保できると考えている。 今後の推進方策として、研究期間の最終年度である2022年度は、年度を全体を通じて、本研究によって得られた成果をわが国に応用可能な解釈論及び法規制の設計として具体化させる作業を行う。すなわち、データ駆動型経済における理想的な市場秩序形成に資する法規制のあり方(解釈論)とは何か、を明らかにして、実践的に解決が要請されている個別的課題についての考え方を提示する論文・報告書を執筆・公表する。具体的には、2022年度内(2022年8月末原稿締切)に、株式会社商事法務より本研究の成果の一部について、分担執筆著書の1章分として、刊行する。併行して、日刊の全国紙等(研究代表者が連載を執筆し、編集担当者と協議できる関係にある日本経済新聞)を積極的に活用し、本研究の成果を、わかりやすくかつ広く社会に還元していく。 状況が許すならば、本研究の過年度の計画ではあるが、いっそう多角的な検討の視座を得るため、米国かEUでの学説の動向把握のための現地調査を実施したいとも考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額として、32,006円生じた。これは、直接経費と間接経費とを合計した2021年度に予定された総額の約1.89%に相当する。おおむね、許容される範囲、すなわち研究計画に沿った執行ができていると考えている。 なお、残額(32,006円)については、令和4年度研究計画のうち消耗品の購入に充当することとしている。
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