本研究の目的は、未成年者の長期的利益を考慮した承諾論の再構築にある。再構築する際には、①未成年被害者の承諾を制約する方向性と、②未成年被害者の法益処分を推進する方向性の二つの異なる方向性があるが、本年度においても①に関する研究を行った。具体的には、医療的措置(美容整形や臓器移植のドナー側、タトゥーを入れる行為など)において、未成年者の承諾を制限する可能性について、オーストリアの議論を参考にしつつ研究した。 オーストリアでは、未成年者の同意能力に関する規定が複数存在している(ただし、刑事罰に関する規定ではない)。それは当初は(とりわけ治療行為において)②未成年者への侵害を促進する方向で規定されたものであるが、現在では、②を制約するために①未成年者への侵害を制約する規定が複数設けられている(たとえば、臓器移植法第8条によれば、18歳に満たない者の臓器提供は許容されないし、美容医療及び手術に関する法律第7条によれば、16歳に満たない者への美容医療又は手術は許されない)。このような規定は必ずしも刑事法の解釈に直接影響を与えるものではないものの、公序良俗(刑法上も違法性が肯定できる)の問題として、あるいは同意能力の問題として一定の重要性を有している。さらに、タトゥーとの関係においては、未成年者がそのタトゥーにより将来受ける不利益(たとえば、所属したい社会に受け入れてもらえなくなる)を理解する能力が欠けていることを理由に承諾能力を否定する見解があることも明らかにした。 これまで性犯罪や監禁罪、拐取罪において、未成年者の制限する様々な手法を確認した。最終年度においても、傷害罪との関係においてこのような制限が可能であること、その際には公序良俗(わが国では社会的相当性)違反や、未成年者が将来の見通しが立てられない(自己の健全育成について判断できない)ことを根拠にしうることを明らかにしている。
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