本研究は、わが国の現行刑法典に存在している併合罪加重規定を研究対象とする。同時審判の可能性のある数罪については、わが国のみならず、諸外国においても様々な対応がなされており、各国が採用する処断方法も区々である。例えば、ドイツ、スイス、オーストリアのドイツ語圏刑法は、「行為者の責任を基礎として(あるいは行為者の責任に応じて)量刑を行う」旨の規定を持ちながら、同時審判の可能性がある数罪について、いずれも異なった処断方法を採る。このような対応の相違は何処に求められるのであろうか。本研究は、諸外国との比較法研究を基礎として、わが国の併合罪加重規定が理論的に正当化し得るかについて批判的に検証するという見地から、当該規定が孕む問題点を抉り出し、併合罪へのあるべき対応策を提示することを目的とするものである。 令和2年度および令和3年度は、わが国における併合罪加重をめぐる学説・判例の展開と、それらに関する先行研究の再検証に取り組んだ。検証の結果、わが国の併合罪加重規定に関する実務の解釈については理論的に与し得ない点があるとの結論に達した。令和4年度は、令和3年度までに実施した研究の成果を論文の形で公表(西岡正樹「併合罪加重に関する一考察(1)」法政論叢76・77合併号、2023年、52-84頁)するとともに、ドイツ、スイス、オーストリアのドイツ語圏刑法における実在的競合規定に関する理論的検証を開始した。本研究は、当初、令和2年度に開始し令和4年度が最終年度となる予定であったが、令和2年度に世界を席巻したコロナ禍の影響により、研究の進捗が遅れ、令和5年度を最終年度とすることとなった。最終年度となった令和5年度には、引き続きドイツ語圏刑法における実在的競合をめぐる諸問題の考察に取り組んだ。その研究成果は、令和6年度に論文の形で公表予定である。
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