令和4年度においては、これまでの研究の成果を踏まえ、刑事訴訟法分野の全般を扱う共著の基本書を公刊した。その中に、任意手段を用いて行われる行政警察活動に及ぶ規律についての概説のほか、昨年度までに実施した、捜査の違法がその結果得られた証拠の証拠能力に及ぼす影響の如何についての検討の成果を反映した記述を含んでいる。また、記述中に明示的には表れていないものの、執筆の過程で、本研究の初年度に公刊した、被処分者の同意に基づく処分の適否の評価をめぐる論述の内容を踏まえた検討も行われており、以上の意味で、期間中の研究の成果の取りまとめとしての意味を持つものということができる。 さらに、刑事手続のIT化をめぐる研究のなかで、対面の手続をオンラインでの実施に置き換えることや、書面を電子データに置き換えることの許容性を巡って、手続の主体(とりわけ被疑者・被告人)の意思が持つ意味について加えた検討を行い、その内容を論文で公表したほか、学会大会におけるワークショップや、研究会の場で公表し、他の研究者や実務家からの反応を得ながらさらに検討を深める機会を得た。オンライン等への置き換えは、手続運営上の柔軟な取扱いを可能にし、利便性の向上のみならず権利行使に対する物理的制約の除去という手続の適正に資する側面を有する反面、対面の手続との間に残る事実上の差異が権利保障に消極に働くことへの懸念もあるため、とりわけ被疑者・被告人の理解を得ることが必要となるが、同意をそのような扱いとするための要件とするかどうかについては、それぞれの手続の趣旨に照らして決せられるべきものであって一律に論じられる性質のものとはいえず、引き続き検討が求められる。
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