研究課題/領域番号 |
20K01349
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
松田 岳士 大阪大学, 法学研究科, 教授 (70324738)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 刑事手続 / 訴因 / 公訴事実 / 審判対象 / 訴因の特定・明示 / 訴因変更 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、刑事手続における訴因制度をめぐる様々な議論について、従来、「審判対象論」が所与の前提とされてきたために看過されてきた側面に、「公訴対象論(公訴の対象事実論)」という新たな観点から光を当て直すことでこれを問題化し、訴因をめぐる個別の論点について新たな解決の道筋を示すと同時に、これらの諸論点・問題を体系的に位置づける基礎となる新たな理論枠組を構築することにある。 研究2年度目となる令和3年度は、まず、前年度に引き続き、「審判の対象事実」と「公訴の対象事実」を区別して扱う立場から、刑事訴訟法256条3項が要請する訴因の特定の一内容とされる「他の犯罪事実との区別可能性」の確保が、具体的に何を意味することになるのかについての検討を継続し、その成果をまとめた「訴因の特定における『他の犯罪事実との区別可能性』の意義について」と題する論文を完結させた。 さらに、その研究の過程において、従来の訴因と公訴事実の関係をめぐる従来の議論が、いわゆる「審判対象論」の枠組において展開されてきたために、起訴状における「罪となるべき事実」の記載のあり方や、訴因変更の要否や限界を考えるにあたって、訴因と公訴事実を二者択一的なものとして扱われてきたことの問題性に気付いたため、同議論枠組みそれ自体の妥当性について改めて検証し直し、その結果を、「『審判対象論』の功罪」と題する論文にまとめ、公表した。同研究は、従来、ほとんどの学説が前提としてきた「審判の対象(事実)は検察官の嫌疑ではなく主張である」とする審判対象の性質論は、本来、裁判所の役割論または訴訟の目的論として位置づけられるべきものであり、また、訴因と公訴事実が、その特定・明示においても、また、訴因変更の要否や限界との関係でも、(二者択一的にではなく)競合的にそれぞれ異なる機能を果たすことを指摘した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的の一つである、「他の犯罪事実との区別可能性」の意義を、訴因変更の限界の問題との関係を特定しながら解明することにあったが、この問題に関する研究については、すでに完成し、公表した。この研究成果は、審判対象論一辺倒であった従来の学説では見えてこなかった問題について、公訴対象論の観点から新たに光を当て直すことによって、訴因論の二つの柱である訴因の特定の問題と訴因変更の限界の問題が、実は同根であったことを論証することに成功したものであって、従来の訴因論の枠組みを根本的に転換するような視点を提示するものである。 さらに、従来の訴因と公訴事実の関係をめぐる議論が前提としてきた「審判対象論」、あるいは、訴因対象説が設定した議論枠組について、上記研究から得られた新たな知見をもとに検討し直した結果、その妥当性が否定されることが判明した。その結果として、「審判対象論」と「公訴対象論」の区別の必要性が改めて確認され、その区別をもとにして訴因や判決の対象事実について、理論的・体系的に論じるための理論的基礎となる重要な知見がいくつか発見された。
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今後の研究の推進方策 |
研究最終年度である令和4年度においては、訴因論に関しては、これまでの研究で発見された知見を活かして、訴因の明示方法についての具体的な検討を行う。並行して、判決の対象事実の判示の方法(有罪判決における「罪となるべき事実」の判示方法)について、その議論の歴史的な経緯を検証しつつ、①判決の対象事実それ自体としての特定・明示のあり方、②公訴の対象事実との関係における特定・明示のあり方という二つの観点から検討し直す。 その上で、訴因、公訴事実をめぐる従来の議論を、「審判・防御の対象事実」という視点からだけでなく、これとは区別された「公訴の対象事実」という視点からも捉え直し、その再編、あるいは、新たな形での体系化を試みる。その際、可能であれば、「訴因変更の要否」の名の下に議論されてきた問題を、「訴因と異なる事実の認定の許否」という観点からとらえ直し、従来の議論枠組自体を組み直しつつ、判例についても新たな分析を加えることにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
残額(11円)で購入できる必要な物品が存在しなかったため。
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