研究課題/領域番号 |
20K01354
|
研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
佐藤 拓磨 慶應義塾大学, 法学部(三田), 教授 (10439226)
|
研究分担者 |
川崎 友巳 同志社大学, 法学部, 教授 (80309070)
樋口 亮介 東京大学, 大学院法学政治学研究科(法学部), 教授 (90345249)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | 犯罪収益の剥奪 / 性的画像記録の没収・記録消去 |
研究実績の概要 |
研究代表者の佐藤拓磨が「ドイツにおける性的画像記録に係る記録媒体の没収とデータ消去命令」(樋口亮介=深町晋也編『性犯罪規定の比較法研究』〔成文堂、2020年〕395-425頁)を、研究分担者の川崎友巳が「アメリカ合衆国における盗撮の刑事規制」(同書173-204頁)を公刊した(同書には、研究分担者である樋口亮介による解題が付されている。同書「本書解題」のうちxcix-cxiが、両論文に関係する解題である。 なお、本研究解題の成果である旨は「本書の趣旨」ivに記されている)。両論文は、日本でも喫緊の立法課題となっている盗撮画像に係る記録媒体の没収とその代替手段としての記録消去命令について、ドイツおよびアメリカの状況を紹介・検討したものである。両国の刑法における没収の前提犯罪となる盗撮罪の要件および処罰根拠を明らかにできたとともに、所有者に対する多大な財産的負担を伴う記録媒体没収の代替手段としてデータ消去等の方法が活用されていることが確認できた。 犯罪収益の剥奪制度に関するオンライン研究会を立ち上げ、2020年度末までに2回実施した。本研究会には、本研究課題の研究代表者・分担者だけでなく、没収研究に関心を持つ若手研究者も参加している。第1回の研究会(2021年1月30日実施)では、オーストリアの没収制度に関する報告と日本の犯罪被害財産の没収制度に関する報告が、第2回の研究会(同年3月24日実施)では、ドイツ刑法における犯罪収益没収の沿革に関する報告とイギリスの刑事没収制度に関する報告が行われた。このうち、オーストリアの没収制度に関する報告は、研究代表者の佐藤が行った。同国の没収制度はこれまで日本に紹介されたことがないことからそれ自体参考になるだけでなく、ドイツの制度を相対化して観察するための素材としても有用である。同報告の内容は、2021年度中に論文として公刊したい。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2020年度の上半期は、新型コロナウィルス感染拡大防止のための図書館の閉館および利用制限により、研究資料へのアクセスが制限された。また、不慣れなオンライン授業への対応等の学内業務の負担増加により、本研究課題のために割くことができるエフォートが当初の想定よりも著しく低下した。そのため、犯罪収益の剥奪制度に関する研究会の企画を練るための十分な時間を確保することができず、これをスタートさせることが2021年1月にまでずれ込んでしまった。しかしながら、2020年度末までに2回の研究会を実施することができ、また、その成果として今後の調査方針を得ることができたため、大幅な遅延には至っていない。 上記の通り、新規の調査研究の開始・遂行を妨げる事情があったことから、2020年の上半期は、佐藤および川崎に既にある程度の調査研究の蓄積があった、盗撮画像に係る記録媒体の没収と記録消去命令に係るドイツおよびアメリカの制度に関する論文を公刊することに注力した。両国の没収制度の一端を紹介するものとして、本研究課題の成果として数えることができると考えている。
|
今後の研究の推進方策 |
2020年度に引き続き、犯罪収益の剥奪制度に関するオンライン研究会を2か月から3か月に1度のペースで開催する。第3回(2021年6月26日開催予定)では、アメリカにおける没収制度とドイツの拡大没収制度(訴因外の違法行為に関係する財産の没収を認める制度)に関する報告が行われる予定である(このうち、アメリカの没収制度については、研究分担者の川崎が報告を担当する)。 これまでの研究会での議論により、各国の没収制度を比較・分析する際には、(1)前提犯罪が被害者のある犯罪である場合に被害者の損害回復制度と没収がどのように連動しているのか、(2)前提犯罪が経済犯罪である場合に没収以外の刑事制裁・行政制裁との関係がどのようになっているのか、(3)訴因外の違法行為に関係する財産の没収や犯罪収益の推定がどのような論理によって正当化されているのかという視点が有用であるという知見が得られた。今後、当初の研究実施計画の通りスイスにも比較法調査の対象を広げる一方、日本の没収制度を上記の3つの視点から再考察することを試みる予定である。 研究会を通じて今後の調査研究のための視点を得ることができたが、超えなければならない課題のハードルの高さも明らかになった。具体的には、諸外国の被害者の損害回復制度を理解するためには刑事手続法に関する知識も不可欠であること、犯罪収益の剥奪を民法上の不当利得制度との類比で理解している国の制度を理解するためには不当利得制度に関する知識が不可欠であること、経済犯罪における没収を理解するためには前提犯罪の要件および法的効果としての制裁についての理解が不可欠になることなどである。これらのハードルの克服のために、刑事訴訟法、民事法の専門家とのコラボレーションも検討したい。
|
次年度使用額が生じた理由 |
2020年度は新型コロナウィルスの影響で出張を伴う対面での研究会を実施できなかったため、当初予定していた旅費支出がなく、次年度使用額が生じた。2021年度も同様の状況が継続するものと思われるため、書籍購入等の物品費に充てる予定である。
|