研究課題/領域番号 |
20K01354
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
佐藤 拓磨 慶應義塾大学, 法学部(三田), 教授 (10439226)
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研究分担者 |
川崎 友巳 同志社大学, 法学部, 教授 (80309070)
樋口 亮介 東京大学, 大学院法学政治学研究科(法学部), 教授 (90345249)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 没収 / 追徴 / 犯罪収益 |
研究実績の概要 |
2021年度中に公刊した業績として、①佐藤拓磨「不同意撮影罪と性的画像記録の没収・消去の立法について」刑事法ジャーナル69号(2021年8月)、②川崎友巳「アメリカ合衆国の没収制度に関する一考察 」同志社法学73巻3号(2021年8月)、③佐藤拓磨「犯罪収益の拡大没収を言い渡した一事例[ドイツ連邦通常裁判所第5刑事部2020.10.14判決] 」判例時報2494号(2021年11月)118-119頁、④佐藤拓磨「オーストリア刑法における没収制度について」山口厚ほか編『高橋則夫先生古稀祝賀論文集 上巻』(成文堂、2022年3月)がある。 ①は、盗撮行為等の処罰と盗撮画像に係る記録媒体の没収に関する現行法の状況を批判的に考察したものである。②は、アメリカ合衆国の没収制度を包括的に紹介したものである。同国の没収制度の全貌を見渡すことができる貴重な業績である。③は、ドイツにおける拡大没収制度(起訴対象の犯罪行為とは別の犯罪行為と関係を有する財産を剥奪する制度。日本にはない)の一適用例を紹介したものであり、同制度の実践的な意義を明らかにしたものである。④は、オーストリア刑法の没収制度の概要を紹介したものである。同国の没収制度を紹介した先行業績は見当たらず、資料としての新規性がある。 2020年度末から、若手研究者を招いての勉強会を始めたが、2021年度はこれを5回開催することができた。その成果の一部を学界に共有するため、日本刑法学会第100回大会においてワークショップ「没収・追徴」を行うこととなった(2022年5月22日開催。研究代表者の佐藤がオーガナイザーを務める)。同ワークショップでは、上記勉強会に参加する研究者が「薬物犯罪における没収・追徴」および「被害者ある犯罪における没収・追徴」について報告するほか、研究分担者の川崎が「金融商品取引法の没収・追徴」について報告を行う。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2020年度は、盗撮画像に係る記録媒体等の没収等が立法課題に浮上したため、この問題に関する比較法研究を行った。前記業績①は、その成果を引き継いで、日本の現行法について批判的に考察したものである。社会的ニーズに応える業績ではあるが、本研究課題の中核にある犯罪収益の剥奪というテーマからはやや外れるものであった。 これに対し、前記業績②~④は、犯罪収益の剥奪というテーマに正面から取り組んだものであり、これらを公にできたことは大きな成果であったといえる。これらの業績により、研究計画のうちのアメリカ法およびオーストリア法の研究については、一定の成果を収めることができたといえる。 また、前記勉強会を通じ、日本の現行法に不足している点を具体的にあぶり出し、今後の比較法研究においてより重点的に調査すべき事項を一定程度明らかにすることもできた。その研究成果は未公刊ではあるが、2022年5月に開催される前記学会ワークショップにおいて発表の機会が与えられることが確定している。 他方、研究計画にあるスイス刑法における没収制度の研究は手つかずの状態にある。また、公刊裁判例の蓄積のあるドイツ刑法における没収については、日本法にとって参照価値の高い制度・論点をピックアップした上で、重点的にケーススタディをすることも必要だと考えている。これらの課題については2022年度中に取り組み、成果を得ることを目指す。
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今後の研究の推進方策 |
前記学会ワークショップにおける研究発表を成功させることに最優先に取り組む。学会後は、ワークショップの原稿を基礎とした論文を法律雑誌等に掲載することを目指す。 比較法研究については、最近他の研究者が公にしている研究業績との棲み分けを意識しながら研究を推進する。ドイツの没収制度については他の研究者により続々と研究成果が公刊されており、イギリスにおける没収制度についても、近々他の研究者による研究成果が公にされる見込みであるという情報を得ている。そのため、研究の遂行にあたっては、これらとの重複を回避に留意する必要があると考えている。 現時点での比較法研究の方針としては、研究代表者の佐藤において、まずは、いまだ十分な先行業績のないスイス刑法の没収制度の概要の調査を優先的に行うことを予定している。次に、ドイツ刑法の没収制度について、先行業績の成果を踏まえつつ、制度の実際の適用例の調査を行うことを試みたい。これにより、制度面の比較だけではなく、日独で犯罪収益の剥奪範囲が具体的にどの程度異なるのかを可視化することを目指す。また、研究分担者の川崎においては、研究計画で予定していたイギリス法ではなく、アメリカ法の研究をより深めることを試みる。アメリカ法の没収制度の沿革については既に調査が進んでおり、その研究成果は近刊予定である。これに加えて、没収制度をめぐる憲法問題等のテーマについても成果を公にできればと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
2021年度も引き続きコロナ禍の影響により対面での勉強会開催が困難であったため、旅費支出が発生せず、次年度使用額が生じた。 2022年度は対面での勉強会開催が可能な状況となっているが、この2年間の経験でオンライン勉強会の長所も実感しており、対面勉強会の必要性については再考の余地があると考えている。そのため、現時点では未確定なところもあるが、2022年度も旅費支出を抑え、その部分を物品費(主として書籍購入費)や勉強会参加者への謝金等に充てることを計画している。
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