研究課題/領域番号 |
20K01356
|
研究機関 | 中央大学 |
研究代表者 |
只木 誠 中央大学, 法学部, 教授 (90222108)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | 自己決定(権) / 承諾(同意) / 承諾(同意)能力 / 高齢者患者の承諾 / 終末期医療 / 自殺幇助 / 治療中止 / 患者の事前指示 |
研究実績の概要 |
本課題研究「終末期における治療中止と患者の事前指示」では、第2年度の2021年度も、新型コロナウイルス感染症が収束には至らず、わが国でも数次の感染ピークの到来を見るなか、大幅な活動縮小を余儀なくされた。特に、国外での研究作業については、先年同様、これを全面的に見送らざるを得ず、日本・ドイツの文献資料の調査・収集などの活動も必要に応じた机上作業を中心として行うこととなった。 そのような状況のもとではあったが、6月には、中央大学日本比較法研究所共同研究グループ「生命倫理と法」のメンバーである小樽商科大学准教授・菅沼真也子氏、大東文化大学非常勤講師・秋山紘範氏とともに、インタビューという形で北海道大学の城下裕二教授との討議を行い、11月には、司法修習生フォーラム主催の自己決定に関するシンポジウムにおいて「高齢化社会/尊厳死・安楽死」のタイトルで講演を行った。同シンポジウムにおいては、聖隷三方原病院緩和支持治療科部長、同病院副院長・森田達也医師による苦痛緩和のための鎮静をめぐる興味深い講演も行われ、ともども活発な議論がなされ、本研究に資するところ大であった。また、2022年2月、比較法研究所研究グループの活動の一環として開催された香川大学准教授・天田悠氏によるオンライン研究報告会においては、主催者として議論を先導しつつ、あわせて広範な知見を得ることができた。 一方、2019年10月の国際シンポジウム「終末期医療、安楽死・尊厳死に関する総合的研究」について、2021年3月に日本比較法研究所研究叢書として報告集が刊行されたのに続いて、その後、ドイツにおけるドイツ語版報告集の刊行に向けて、日独執筆者陣による多大な協力のもと、2022年4月の刊行に向けてドイツ側との意見交換、調整、相互連絡が重ねられた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
終末期における治療中止と患者の事前指示に関するわが国における現今の状況と今後にむけての対応の方向性を探ることを目的とす標題の研究課題においては、諸外国、とりわけ、先端的な研究・議論が行われているドイツまたスイスの状況やその法制度の比較法的な検証において得られる成果をもってわが国の議論のたたき台として供することをめざすものであるが、本年度は、上に記したとおり、コロナウイルス感染症の世界的な広がりによる影響を大きく受けて海外での研究作業は実質的に実施することが叶わず、内外研究者との電子メールのやり取りやオンライン上での限られた調査・研究活動となった。また、図書館の利用や多人数の集まりについての制約等、国内での研究についても大きな不自由が生じたことから、円滑な研究活動とはいえない状況であった。 しかしながら、2019年秋の生命倫理国際シンポジウムの報告集が、日本に続いてドイツにおいても刊行の運びとなったことは大きな成果で、シンポジウムの主催者の一人として大きな喜びであり、また、オンラインという新たな手段による研究報告会の可能性が広がったことは、従来の研究スタイルを大きく変えたものとして評価されるといえよう。
|
今後の研究の推進方策 |
コロナ感染症は、今後も、新たな変異株発生の可能性のもと流行拡大が直ちに収束の方向に向かうことは必ずしも期待できないところである。とはいえ、「with コロナ」という新たなフェーズにおいて諸規制の緩和が期待される昨今であるり、2022年度においては、2021年度に見送っていた諸研究活動を一刻も早く本来の軌道に乗せることが肝要であり、本来の研究態勢へスムーズに移行すべく準備を整えたい。 その手始めとして、まず、2023年3月にハレ大学で開催される生命倫理と法シンポジウムにおける「終末期における患者の自己決定と事前指示」の報告の準備を進めていく。そして、人の往来の自由度がコロナ禍以前のレベルに戻ることは近々には難しくとも、社会の状況をみた上で、資料収集・調査活動のため、夏と年明けの時期にドイツへの出張・滞在の機会を設け、現地において、ゲッティンゲン大学・デュトゥゲ教授ならびに同・リップ教授との共同研究を行い、これを通して研究の基本となる比較法的な成果を確保し、その後、両教授による論稿の翻訳と比較法雑誌誌上での公表に取り組む予定である。 一方、国内活動としては、日本の研究者との共同研究を通して試論の形成に取り組む。また、並行して、文献を通じた、ドイツとわが国の状況についての精査にも力を入れたい。『終末期医療、安楽死・尊厳死に関する総合的研究』中に、また、同書のドイツ語版中に新たに起こされた各論者の論稿は、その意味で大いに参考になるであろう。 以上のような作業を通して、ドイツなどの法理論や立法・制度内容、先進的な議論状況を明らかにし、それらをわが国に照らしつつ、本研究の主眼である、わが国における法整備の可能性とその射程を探るという作業の実践に努める。そして、その成果を世に問うべく機関誌等において発表し、当該研究の充実を図っていきたいと考えている。
|
次年度使用額が生じた理由 |
理由:2021年度については、大きくは、夏期ならびに冬期の海外滞在における資料収集作業にかかる旅費・滞在費等と書籍、消耗品等にかかる経費が主な出費項目であったところ、上述の通り、海外出張に関する経費の出費がなくなったことから、次年度使用額に変更が生じたものである。なお、書籍等の購入をはじめとして、各購入経費の使用内容については、おおむね当初予定していた通りである。
使用計画:2022年度については、夏、冬2度程度の海外滞在を行って資料収集作業を継続する予定である。そのため、これにかかる旅費・滞在費等がまずは必要となる予定であり、また、同じく、書籍、消耗品等にかかる経費も主要な出費項目として計上することになるであろう。また、翻訳作業等にかかる謝金を含めたアルバイト代等、また、調査・打ち合わせにかかる旅費、会議費、雑誌を含む諸消耗品等に関しても、その他の経費として出費が見込まれるところである。なお、書籍等の購入をはじめとして、各経費の使用内容についてはおおむね当初の予定に沿ったものとなると思われる。
|