研究課題/領域番号 |
20K01358
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研究機関 | 南山大学 |
研究代表者 |
岡田 悦典 南山大学, 法学部, 教授 (60301074)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 刑事訴訟法 / DNA / 生体捜査 / 強制処分 / 令状主義 / 強制処分法定主義 / 強制採尿 |
研究実績の概要 |
2022年度は、2021年度に公表したアメリカ法の成果「アメリカ合衆国における被逮捕者に対するDNA捜査とその規制-連邦最高裁Maryland v. King判決を中心として―」南山法学45巻2号(2021年)を受けて、同国との比較を行う比較対象として検討するために、イギリス(イングランド・ウェールズ)の近年の動向を研究・調査した。まず、現在規律している、イギリスの1984年警察・刑事証拠法の現状を把握することに務め、DNAデータが抹消される仕組みとともに、DNAデータを捜査として取得する法制度の枠組みを調査した。 合わせて、その立法経緯である、1984年前後のイギリス刑事手続に関する王立委員会報告書と、イギリス1993年刑事司法に関する王立委員会報告書の動向を調査した。 さらに、2000年代に入り、イギリス(イングランド・ウェールズ)のDNAデータ保有施策と無罪確定者に対する抹消の権利に関して、ヨーロッパ人権裁判所における条約違反を宣言した裁判例(2008年S and Marper v. UK事件判決)を検証した。捜査を規制しようとするアメリカ合衆国の議論とは異なり、国家による情報保有からの自由という観点からの議論を知ることができた。そして、これを受けて、2010年前後に話題となった、イギリス犯罪・安全法案及びイギリス自由保護法案(同法案が議会を通過し、現在の法制度となっている)の議会資料などを検証した。また、イギリスの論文も検討し、スティグマを受けない自由といった観点からの議論も知ることができた。 また、合わせて、日本における議論を検証した。具体的には、最高裁が強制採尿令状を創出した昭和50年代の議論を調査するとともに、日本における無罪者のDNA型データ抹消訴訟について取り上げ、判例評釈を執筆した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
イギリスの取りまとめが、やや難しく、特に1984年警察・刑事証拠法の該当部分を理解することが、同国の複雑な法制度であるがゆえに、難しいところがある。そのため、論文の完成がやや遅れているところである。一方、わが国の動向については、近時の判例の分析も含め、予定通りではある。ゆえに、概ね順調に進展しているとした。
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今後の研究の推進方策 |
2023年度については、イギリスの同テーマに関する手続法の仕組みを、俯瞰的に、かつ歴史的に取りまとめて、わが国の法制度を考えるための重要な示唆を提言したいと計画している。さらに、強制採尿を含めたわが国の生体捜査に関する議論のとりまとめに着手する。具体的には、強制採尿と留置きの問題について整理するとともに、DNA型データの取得に関する現状とイギリス法との比較における提言を計画している。
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次年度使用額が生じた理由 |
海外調査及び学会・研究会出席などを予定していたが、なお、コロナ禍の影響があるため、海外調査をすることを差し控えたことと、対面の部分も増えたが、学会・研究会なども対面式で行う回数が少なかったこと、さらに、イギリス調査がやや遅れてしまったため、資料収集がなお十分ではないことから、文献収集が不十分であったこと、などの理由による。
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