研究課題/領域番号 |
20K01359
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研究機関 | 甲南大学 |
研究代表者 |
笹倉 香奈 甲南大学, 法学部, 教授 (00516982)
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研究分担者 |
小保内 俊雅 東京女子医科大学, 医学部, 助教 (20385412)
徳永 光 獨協大学, 法学部, 教授 (20388755)
朴 永銖 奈良県立医科大学, 医学部, 病院教授 (80364066)
埜中 正博 関西医科大学, 医学部, 教授 (90577462)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 刑事裁判 / 科学的証拠 / 医学的証拠 / 乳幼児揺さぶられ症候群 (SBS) / 虐待による頭部外傷 (AHT) |
研究実績の概要 |
本研究は、乳幼児の虐待事案・死亡事案の刑事手続における医学的証拠のあり方について、法学的・医学的観点から総合的に検討することを目的とするものである。このような目的に向けて、本研究の代表者および分担者は、医学的意見・医学的証拠の作成段階のあり方及び医学的証拠の法廷への顕出のあり方について研究を進めている。 2020年度は計画どおり基礎的な文献調査を行うとともに、複数回の公開研究会を開催することができた。 第一に、乳幼児の虐待が疑われる事案における医学的証拠のあり方について、国内外の規律の現状を確認するために文献調査を行い、代表者・分担者それぞれにおいて論文や学会報告の形でその成果を公表した。これらの事案にかかわる「乳幼児揺さぶられ症候群(Shaken Baby Syndrome)」や「虐待による頭部外傷(Abusive Head Trauma)」に関する国内外の最新の議論について、英米や欧州の研究者と情報を交換することで文献の収集や実態の把握なども行った。また、最近、民事の医療訴訟における「カンファレンス鑑定」や、オーストラリアなどの専門訴訟で採用されている「コンカレント・エビデンス方式」を日本の刑事裁判でも採用すべきであるとの議論が出現していることから、それらの議論に関する文献調査と検討を行った。 第二に、小児頭部損傷研究会」を2020年12月と2021年3月に開催した。分担者の埜中は「脳静脈洞血栓症と虐待による頭部外傷との鑑別が問題となった乳児例」、分担者の徳永は「刑事裁判における新しい科学的理論・証拠の取扱いについて」と題する研究報告を行った。研究会では、小児科学、法医学、脳神経外科学、法学の研究者のみならず、法実務や児童相談所の実務に関わる参加者とともに、活発な意見交換を行うことができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2020年度は、本研究の基礎となる国内外の文献調査を行うとともに、国内外の刑事裁判における医学的証拠にかかわる実態の調査を行い、その内容をまとめて国内外の学会や研究会等で公表し、さらに公開の研究会を3回開催することを予定していた。 しかしながら、新型コロナウィルス感染症拡大の影響により(1)国内外で現地に赴いての実態調査を行うことが困難になり、また(2)学会が中止になるなど、当初の予定を変更せざるを得ない部分が出た。 2020年4月に開催を予定していた小児頭部損傷研究会も一旦は延期せざるを得なかった。 しかし、以上の状況にもかかわらず、文献調査はおおむね予定通りの進捗で行うことができた。国外の研究者ともウェブやメールを通じた意見交換を行った。 2020年12月からはオンライン開催の準備を整えた上で、延期されていた研究会の開催をすることができた。 今後は、2020年度に積み残した課題の遂行に努めたいと考える。海外渡航が可能になれば、当初予定していた海外での現地調査も行いたい。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度は、2020年度に積み残した課題と、2021年度に計画している課題の遂行に努める。 当初予定していたとおり、2021年度は国内外の刑事裁判における医学的証拠にかかる運用の実態調査を行った上で、問題点の抽出を行いたいと考えている。 乳幼児の児童虐待事件における医学的証拠のあり方についてのモデルを構築するための基礎的な調査を遂行するにあたっては、現在の制度・運用の問題点とそれへの解決策について考察する必要がある。 新型コロナウィルス感染症の状況によるが、今後はオンラインを活用して、国内外の実態調査や学会での成果の公表を行いたい。小児頭部損傷研究会については、オンラインによる開催のノウハウも構築できたため、6月、9月、12月、3月の4回にわたって公開して開催したいと考えている。得られた成果は、随時国内外において論文や学会報告などの形で公表したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルス感染症拡大のため、3回の開催を予定していた研究会の開催が2回にとどまった。さらに、研究会はオンラインでの開催にせざるを得なかったため、参加者や講師の旅費の支出が不要になった。海外調査の実施、国際学会への参加などもできず、差額が生じた。 2021年度は、研究会を4回開催し、感染症の影響が減じた時点で対面での開催に切り替えることを予定している。
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