研究実績の概要 |
本研究は、アメリカ法およびドイツ法を主たる対象としつつ、いわゆる無過失責任(自己の過失行為を要件としない責任)の正当化根拠と判断構造に関する基礎的検討を目的とするものである。 2023年度は、本来であれば研究期間の最終年度となるはずであったが、同年10月から2月まで育児休業を取得したため、実質的に研究を行うことができたのは年度前半の約6か月程度である。したがって、研究実績はやや限定的であるといわざるを得ない。 主たる検討対象としたのは、前年度に引き続き、アメリカ法上の厳格責任に関する議論である。これについては、既に第3次不法行為法リステイトメント20条の「異常に危険な活動」について紹介・分析する論文(山本周平「「異常に危険な活動」についての厳格責任――第3次不法行為法リステイトメント20条の検討」松久三四彦古稀『時効・民事法制度の新展開』(信山社、2022年)791頁)を公表したところであるが、2023年度には、同論文でカバーできなかった関連する議論を付け加え、全体を発展させる形で、研究報告を行った。この報告では、そもそも厳格責任それ自体について批判的な研究(Anthony Gray, The Evolution from Strict Liability to Fault in the Law of Torts, 2021等)の紹介・分析を付け加えて再構成し、その結果、厳格責任の正当化根拠それ自体が自明でなく、なお検討の余地があるという示唆を得た。こうした知見は、厳格責任が限定的ながら承認されている一般的なアメリカ法上の議論や、危険責任の存在が当然視されるドイツ法上の議論に対するアンチテーゼとしての意味を有するであろう。
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今後の研究の推進方策 |
2024年度においては、アメリカ法およびドイツ法の補充的検討を行った上で、研究の取りまとめを目指すことになる。 まず、アメリカ法に関していえば、学説については一定の検討を行っているので、今後は個別の判例の分析を行うことが重要な課題となる。アメリカ法上の厳格責任に関する判例は必ずしも一貫したものではないといわれることもある(Dobbs, Hayden & Bublick, Hornbook on Torts, at 786 (2nd ed. 2016))が、そのような状況の中でどのような像を見いだすのかが問われよう。また、アメリカ法における厳格責任の起源とされるイギリス法上の判例法理(Rylands v. Fletcherに始まる一連の判例)も視野に入れる必要がある。 ドイツ法に関しては、危険責任に関する通説的見解はおおむね調査済みであるため、それとは異なる主張を展開する学説(Andreas Blaschczok, Gefaehrdungshaftung und Risikozuweisung, 1993; Nils Jansen, Die Struktur des Haftungsrechts, 2003等)を中心に検討する予定である。
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